天の響

クルシス20題

天然

 成果を上げられないまま、クラトスとユアンの二人は食堂に戻ってきていた。無論それはここで朝食を食べたと言うユアンの言に沿って、である。
「……この席だ」
 時季も時間も外した宿の食堂には人気がなく、がらんとした室内に粗雑なテーブルが並んでいる様はうら寂しい。
 その隅の一角にあったテーブルの前でユアンは立ち止まり、滑らかとは言い難い木目の上に手を下ろした。そのまま、備え付けられた椅子に腰を下ろす。当然背もたれなどあろう筈もない、堅い椅子。
 勇者の一行等と持ち上げられるようになって暫くの後は、王侯貴族たちの媚が見え透いた招きに応じたりと忙しかったが、結局今も以前と余り変わりのない貧しい生活をしている。否、ハーフエルフである事を隠し、人目を避けて暮らしていた頃よりは楽だ。少なくとも、大戦を終結させた彼等に対してだけは、面と向かってその血を罵るわけにいかないのだろう。
 その代わり、恐れと興味の視線に晒される覚悟は必要だが。
 向かいの席にクラトスが座り、ユアンを真っ直ぐに見据えた。
 ──彼の場合は特に、同胞である人間から忌まれ、妬まれているようだった。汚れた種族に肩入れした挙げ句、人間では到底辿り着けない力を手に入れた、その事に対して。
 酷く、面倒な名を背負い込まされたな。そう思わないでもなかったが、やがて来るだろう真の世界救済と統合の時、そして愛する女性の笑みを思えば耐えられる。
 そこまで思って、不意にユアンは何故自分たちは用もないのに向かい合って座り、和んでいるのだろうと気付いた。

2003/12/13 初出