天の響

クルシス20題

成功

 ある日突然、それが長年の命題であったかのように彼は話し出した。
「私は考えていた。アップルグミをもとに、より強力な疲労回復薬を作れないかと。レモングミでは駄目なのか、だと? これだから素人は困る。レモングミはレモン味なのだぞ! それに不経済だ。そこで私が開発したのが、この濃度十倍アップルグミだ。なんとレモングミと同様の回復力を期待できる。原材料はアップルグミ三個。ん? 濃度が十倍ではなかったのか等と細かい事は気にするな、禿げるぞ。商品名が実態を表していないのは常だからな。とにかく私はやった。そうだ、やったんだ。成功したぞクラトス!」
 話している内に、実験成功と言う事態に喜びが沸き上がったのか、彼は満足そうに笑った。それから差し出したのは、些か歪で普通の物よりも色が濃く、大きさも一、二回り大きいグミ。
 それを静かに見下ろして、クラトスは疑問を提示した。
「しかしユアンよ、これはアップルグミを二つ三つ食べるのと何ら変わりない、と私は思うのだが」

2003/12/17 初出