天の響

クルシス20題

差別

 少し伸びてきた前髪を掻き上げ、騎士は思案するように視線を宙に浮かせた。それに気付いたマーテルが首を傾ける。拍子に豊かな長い髪が胸元を滑り落ちた。
「ハーフエルフと言うのは、頭髪を伸ばす風習でもあるのか?」
 かの種族について騎士がそう思ったのも無理はない。路を共にする同志は勿論、方々に隠れ住むハーフエルフたちも、皆殆どが長い髪を風が遊ぶに任せていたのだ。
 しかしその問いは、マーテルが浮かべていた微笑みに幾らか寂しい影を差した。
「……耳を隠しているのよ」
 あ、と得心して騎士は己の髪を上げていた手を下ろした。
 血の濃さによる差はあれど、総じてハーフエルフの耳は特徴的だ。それが一目では分からないように、と彼らは髪を伸ばし隠していたのだ。それが、差別される側の生み出した知恵なのだろう。
 何とはなしに、自分も暫くこのままの髪で良いかと騎士は思い、折からの風が毛先を弄ぶのに任せた。

2003/12/10 初出