天の響

クルシス20題

失敗

 探しては、そこに指輪がない事を確認し肩を落とすこと数回。部屋から見付け出す事を諦めたクラトスは、顔を洗おうと思ったら水がなくて井戸まで酌みに行った──と証言するユアンに従い宿の傍に備えられた井戸まで辿り着いた。無論、道中の床にも鋭い視線を向ける事は忘れない。
「……深いな」
 覗き込むと、井戸の底は遙かに遠く、また陽が射し込まない事もあり、天使化と言う超常の力によって強化された彼らの眼をもってしても、指輪があるかどうかは判らなかった。
 周りを見回していたユアンが、ふむ、と思案の声を出す。
「では見てきてくれないか、クラトス」
 酷く理不尽な要求をされたような気がして、クラトスは眉を潜め背後のユアンを振り返った。
「飛んでいけば良かろう。羽根を広げればマナの光で明るくなるしな」
「──同じことをお前にも言ってやろう」
 む、とお互いに不穏な空気が流れる。
「ならば勝負だ」
 言葉と同時に片方の拳に力を込め、それから真正面から対峙する格好でユアンは手を突き出した。
 その動きに咄嗟に反応したクラトスの手は、握り拳。そしてユアンの手は、大きく開かれていた。
「……くっ」

2003/12/12 初出