剣が欲しい、と言い出したミトスにユアンは肩を竦めた。
「そんなもの、野蛮だし邪魔だ。魔術で戦える」
それは古里のエルフ族と通じる見解だ。そもそも武具に良く使われる鉱物は、大抵マナの伝導率が悪く、精霊とマナとに親しむ者としては忌避すべき対象だ。無論、エルフ族を見て育ったミトスにも同じ価値観はある。けれど、と敢えて訴える。
「魔術を使ったら、ハーフエルフだってバレてしまうよ」
だから、いざと言う時に直接危機を振り払える力が欲しいのだと。
ユアンもそれには得心がいったのか、自分も一つ買い求めるべきかと呟いた。
「姉さまは大丈夫。僕が守るから」
振り返り子供らしく宣言してみせた相手は、けれど儚く微笑んだ。
「いいえ……ミトス、お願いがあるの」
姉の細い指が、手の平に添えられる。
「反対はしないわ。けれどその武器で、不当に生命を奪わないで」
あまりに優しい姉の言葉に、ミトスは応える言葉が見付からなかった。それらがこの世に存在するかさえ疑わしいと思った。
とは言えそれは一瞬のことで、今度は何故直ぐに反応出来なかったのか分からないまま、ミトスは姉に倣って静かな微笑みを浮かべ、肯いた。