「世界を見たことがありますか?」
マーテルが発した奇怪な問い掛けに、騎士は顔を上げ、彼女の顔を見つめた。それに薄く微笑み、彼女は星々が飾る夜空を指差した。
「遙かな過去、私たちの遠い祖先は宇宙からこの世界を見ました」
その記憶に残された風景を、彼女は見たことがある。
「この夜空のような闇の中に、私たちの地球は浮いているのです」
彼女の母親が、そしてその母親が、順に受け継いできた心の光景を思い出そうと、彼女は静かに瞼を閉じた。
「生命が放つ沢山のマナの輝きで、地球は光り輝いていました」
この眼で見たわけでもない、ただの記憶の光景に、それでも心が打ち震えた。
それは、なんと愛おしい感情だろう。
この星は生きている。
そして美しいマナを宿している。
今でもはっきりと思い出せる、漆黒に塗り潰された視界の中、青く澄んだ輝きを放つ星。
そして眼を開いた先に居る、一人の騎士。
「貴方のマナの光に、似ているわ」
或いは世界が宿すマナだと思ったそれは、海の色なのかも知れない。しかしどちらでも構わなかった。
この地球で生まれた人と言う種族だからこそ、持ち得るマナなのかも知れないと、そう思った事こそが彼女にとっての事実で、だから彼女は人間が好きなのだ。
何時か、この世界に飛来し受け入れられたエルフ達同様、この世界の生命である人間も自分たちを受け入れてくれると信じられる、そのマナの光に彼女は目を細めた。