壺から滑り落ちた蜜を指先ですくった。白い腹が金色に染まり、長い指を温い感触が伝う。
噎せ返る甘い匂い。煮詰めた感情のすべても溶け込んだような。
重苦しい溜息が喉の辺りにつかえ、呼吸を奪った。
やがてノームの引力に伏拝した蜜はゼロスの指の合間から滴り落ち、静寂に亀裂と言う音を入れながら食卓に薄汚い染みを広げていった。彼は奇妙な執着を注ぎ、零れる蜜を凝視した。落とした視線の中で身を捩り、螺旋を描きながら、ただ、緩慢と、薄蒼の氷面を泳いでいく。
「勿体ねぇなぁ」
衰退世界の子供は呆れた様子で笑い、それをさらって嘗めてしまった。