天の響

ゼロスファンに30のお題

嫌い

 甲斐なく、方々に跳ね飛んだ鼠色の毛先を仰ぎ、少年は絶望の声をあげた。
「もぉー! ゼロスのバカっ」
 大嫌いだ――と続ける幼稚な罵声。似つかわしくない笑い声がそれを受け止めた。梳いた努力を奪った男の左手は、怒りと可笑しさと、どちらも本気であって本気でない撓む波に合わせ揺れている。
 それがまた少年にとっては面白くない事の上乗せで、だから本当の事を指摘したのは、ささやかな意趣返しだったのだけれど。
「あんた」
 愛想の調味料抜きで突き出した言葉に、テセアラの紙と等しく薄平らな表情が応える。
「『好き』は嘘だと思ってるくせに、『嫌い』は信じるんだね」

2005/02/07 初出