「何処行ってたんだよ」
彼がその日の宿に戻ったのは、丁度細工物を仕上げていたロイドが最後の一彫りを終えたところだった。
或いは、待っていたのだろうか。
ゼロスは大げさに頬を緩めてみせた。
「俺さまちょっと淋しくなっちゃってさぁ、キレーなお姉さまがたに慰めて貰ってきたの」
女と会っていたのは真実だ。但し、相手は機械仕掛けの翼を纏う毒婦であったが、日頃の軽薄な振る舞いは半分混ぜた嘘を真実にし、呆れられてお仕舞いだ。
だが――
「お前さぁ」
返された言葉の硬さに背が強張った。
使い込んだ小刀が机上に置かれ、少年の視線はその刃程に真っ直ぐゼロスを貫く。
「そういう事は、ちゃんと俺に言えよな」
「――へ?」
思わず零れた間抜けた声も一緒に、ロイドは少しだけ背伸びしてゼロスの身体を抱いた。それから二度、三度背中をあやすように叩かれる。
まるで、幻に夢見た母のように。
「仲間なんだからな、遠慮なんてするなよ」
文字通り、慰めてくれているのだ、この子供は。
彼を包み休ませるには小さく、何もかも受け止めるには透明過ぎる、けれど温かい腕で。
「は。はは……」
ゼロスは喉に詰まった何かを、吐き出すようにして嗤った。