天の響

ゼロスファンに30のお題

旅の終わり

 それは長い長い、休暇のような旅だった。
「いやね、楽だったわけじゃないのよホント。毎日きっついバトルの連続でさ、世界の命運をかけちゃったりしてたわけよ」
 けれどその日々は男に安息を与えた。彼は知ったのだ。人を信じること、人に信じられること、世界が美しいことを。
 疑心と策謀だけが生きる術ではなかった。
「それなら」
 男の回顧を背で聞いていた少女が、ふいに呟いた。その言葉は呼吸を合わせて吹いた風に乗り、二人の間を舞う。
「そんな事を仰有るなら、そのまま旅に出ておしまいになれば良かったのですわ」
 あの少年の手を取って。
 それを希求しなかったとは言えない。しかし彼は応える唇の端に微かな笑みを浮かべた。
「あれは日常に出来るもんじゃない。休暇で――いいのさ」

2006/05/23 初出