微かな声が聞こえる。
周囲を見渡し、彼は世界が真白い事に気付いてぞっとした。天と地は区別も無いほど白く塗り尽くされ、何時ぞやの悪夢の日を思わせる。ただ、冷気はなく、その一点が彼に自身を取り戻させた。
その白い世界の端に、幼い少年が蹲っていた。押し殺した啜り泣きが耳の中で反響する。
痛むのだ。
彼は知っていた。だが、少年の訴える痛みは外傷によるものではない。彼の孤独を誰も省みてはくれないことが哀しく、淋しさに自らの内を痛めて泣いているのだ。
不快な泣き声がこめかみを締め付ける。苛立ちに少年を叱り飛ばそうとしたその時、彼は気が付いた。
啜り泣き続ける少年の髪は、この世に唯一つの血が持つ色。
赤い髪の少年は膝を抱えたまま、まだ、立ち上がろうとしない。
――否、立ち上がった事など、なかったのかも知れない。