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五十音順キャラクター・ショートショート【ち】
→ルールは2012年12月17日記事参照


 地球は美しい。
 アーシアンは愛おしい。
 俺は何度でもそう実感する。だからみんなが呆れて馬鹿にしても、ありのままの地球が好きで、守りたくなる。
 でも、最近はこうも思う。
 地球は確かに美しく愛しいけれど、この世で最も美しく愛しいものではないから、優しくできるのだ。
 だって、最も美しく愛しいものには、こんなにも醜く激しい気持ちを抱いている。

地球より美しく愛しく
……ちはや(漫画「アーシアン」)


高河ゆん作品は、「コトバ」の力が強くて印象的です。また、狂気や執着心の描写に多大な影響を受けました。さすがにあの空気感は再現できないですね……。

過剰に控えめで周囲を苛々させるくらいなら、笑っちゃうくらい自信家な方が好ましいと思っているので、昔はちはやが苦手でした。
が、完結編での裁判時の理性には震撼しました。

で、書いてみたけれど実は「アーシアン」より「源氏」が好きです。
いつか「源氏」完結編が出ることを祈って!

五十音順キャラクター・ショートショート【た】
→ルールは2012年12月17日記事参照


 滝壺目掛けて、落ちる。
「っニャァアー──!!!!」
 タットは装うことを忘れ、叫び声を上げた。
 宙に浮いていられなかった。体の中に隠したエレメントが、大地に引き寄せられているのだ。だがそれに気が付いても、今さら放り出すわけにいかない。
 きっと水面に近付けば、タットに備わった浮遊能力が働いて溺れずに済むはずだ。そう思おうとしても、ぐんぐん迫る水面はタットの頭の中を恐怖で満たしていく。
 タットは、泳げないのだ。
 バランスを崩した体は頭から水面に激突する──!
「たすけて、レオリナぁっ!」
 思わず祈った瞬間、腹の辺りがぐっと掴まれた。そこを支点にして重力に逆らって浮き上がるような感覚があり、タットはひゃっと声をあげた。
 寸でのところでタットを掴み上げたのは、エレメントを追ってきた夢見る黒き旅人だった。
 小脇に抱えられたまま、水飛沫に濡れた横顔をしばらく見上げる。
 あーあ、捕まっちゃった。
 恐慌から解放された途端、タットは助かったことへの安堵や感謝を捨てて、秘かにそう呟いた。
 エレメントは返すにしても、もう少し引っ掻きまわしてやる予定だったのだ。
 黒き旅人の操るフロートボードは、ジャングルスライダーの終点に向かって水面を進んでいく。状況だけみれば、まるで二人で遊園地の名物アトラクションを楽しんでいるようだ。
 ま、助けた御礼に可愛いタットちゃんとのデート気分くらい味わわせてあげるわ。
 そう決めて、タットは大人しく彼の腕の中に収まってやった。

助けた御礼はデート1回
……タット(ゲーム「風のクロノア2 〜世界が望んだ忘れもの〜」)


タットのようなトリッキーなキャラが巧く動かせると、一端の書き手かなぁと思います。自分はまだまだですね。
今作は掴まった以降の展開が違う2パターンを書いて、意外とドタバタしてない方がタットらしく感じたのでこちらを採用しました。

「風のクロノア」は初代(door to phantomile)の印象が強過ぎるのか、2(世界が望んだ忘れもの)はストーリーの流れを覚えていません。イベントやワールド、パズル性の高まった仕掛けは印象深い物が多いのに、ちょっと残念です。

五十音順キャラクター・ショートショート【そ】
→ルールは2012年12月17日記事参照


 その子供は、泣きながら後を付いてきた。
 少し進んだところで立ち止まり、子供を待つ。追い付いてきたら、また先に立って歩く。こんなことを何度も繰り返していた。
 まだ道は半ばだというのに、もう日が暮れる。
 だが彼は我慢強く子供を待った。彼の師がそうしたように。
 背負ってやれば良いのだろうが、彼にも荷がある。
 水の城の王は、不測の事態に備え、各地に貯蔵庫を作らせていた。その一つは、彼が棲む村から半日歩いた岩山の中に隠されている。
 水が開放されたといっても、辺境にはまだ行き届いていない。痩せた田畑を蘇らせようにも、日数が足りない。
 故に、彼は月に一度村とそこを往復して、水と食料を運んでいる。
 つと、子供が転んで、吃逆に収まっていた泣き顔をまた涙が濡らした。
「泣くな」
 村への帰り道で拾った、名前も来た場所もわからない子供だ。このご時世、名も付けて貰えないまま親を失う子供は珍しくないが、名を呼べないのは不便である。
「泣くな、美雨」
 ――自分の口から零れた名前に驚かされた。
 彼女が泣いているところなんて見たことがないのに、一度そう呼んでしまうと、他の名前はもう見当たらない。
 気づけば子供も驚いて涙を引っ込め、彼を見上げていた。
「美雨?」
「……ああ。美雨――お前の名前だ」
 その名で呼ぶと、途端に子供を一人で歩かせるのが不憫になった。
 彼女はきっと、両親と手を繋いで歩いた筈だ。
「美雨、おいで」
 衝動のまま、座り込んだ子供に手を伸べる。
 そして空とその泪の名を持つ二人は、並んで歩き始めた。

蒼空から落ちた泪
……空(舞台「シャングリラ ー水之城ー」)


水門の戦い後の空と、少女美雨の出会い。
タイトルやら泪が云々というのは、作中の歌詞から拾って来ていますので、雰囲気で汲み取ってください。
最終シーンで持っている頭陀袋の中身を想像して、色々冒頭に書き込み過ぎました。

五十音順キャラクター・ショートショート【せ】
→ルールは2012年12月17日記事参照


 世界を壊すことは叶わなかった。
 今日までの活動が水泡に帰したその事実は、けれど彼女を安堵させた。
 もともと、彼女自身の望みは彼の平穏だった。それを手に入れるためなら、世界を壊すことも厭わなかっただけだ。
 いま、求めていた平穏は此処にある。魂は永遠の安らぎを得て、もう灰色の未来を見ない。
 少女は少年の手を取り、最後の時を待った。

 そして、彼と彼女の小さな世界は壊された。

世界は壊された
……セラ(ゲーム「幻想水滸伝3」)


キャラクターが決まるまで、一番苦戦しました。
いつか書きたいと以前から願っている赤毛軍師兄より前に、セラを書くことになるとは思っていませんでした。
結局、幻水3はルックの壮大な自殺志願だったんですよね……?

五十音順キャラクター・ショートショート【す】
→ルールは2012年12月17日記事参照


「素晴らしい計画が浮かんだぞ!!」
 扉が壊れそうな勢いで開かれたと思うと、まずそんな言葉が飛び込んできた。
「これぞ美しき完全犯罪。ホームズのヤツが地団駄を踏む様が目に浮かぶようだ。わは、わはははは」
 興奮して口から唾を飛ばす教授の様子に、彼はわっと声に出しながら急いで立ち上がった。ほとんど同時に台所から兄貴も駆け寄ってきて、二人はテーブルクロスごと食事の用意を退避させる。
「さぁ、お前たち見ろ!」
 間一髪、物のなくなったテーブルの上に、設計図と地図が叩き付けられた。
「このプテラノドン三号は深海一万マイルの水圧に耐える装甲と――」
 新しい計画だ!
 彼は思わず身を乗り出した。狭いテーブルの上に、三つの頭が寄り集まる。
 部下たちが興味を示すのに満足して、教授は新しい発明品の機能と、それを使って水路から銀行の金庫に侵入する大胆不敵の犯罪計画を説明した。
 その言葉の響きに、彼は思わず頬を綻ばせた。教授が灰色の脳細胞から生み出すオモチャや計画はいつでも彼をワクワクさせる。
「――というわけで、早速準備に取り掛かれ!」
 けれど彼が惹かれているのは、計画の果てにある財宝でなく、こうして教授や兄貴と一緒に何かをすること自体かもしれなかった。

ステキな仲間たち
……スマイリー(アニメ「名探偵ホームズ」)


通称「犬のホームズ」。子供時代の聖典です。
モリアーティ教授の一味は、天才と阿呆の合いの子という感じで、大好きでした。
ちなみに、テーブルからどけた料理は勿論、裏の川で獲ったダボハゼです。