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「テイキング サイド~ヒトラーに翻弄された指揮者が裁かれる日~」13時回。
http://www.taking-side.com/

一言でまとめると、しんどかったです。
重いお話を受け止めるのに集中力を使い果たし、終演後はどっと疲れました。困憊しすぎて、飲み物と甘い物を求めてカフェに駆け込んだくらい。

本作は、アーノルド少佐のオフィス内で展開される、激しい会話劇。
一幕、二幕とも序盤は多少笑い処がありますが、九割九分は「ど」が付くシリアスさ。
耳慣れない名前が出てくると、うまく聞き取れないことがあり、ちゃんとすべてのやりとり、言葉の意味が理解できたかは不明です。正直、耳で聞くより目で読む方が情報を取り込める性質のため、字幕が欲しいと思いました。でも、もし本作が映像作品だったら、ここまでの集中力は出なかったでしょうね。生の舞台だからこそ、役者のエネルギーを受けて、観客も全力を出すのだと思います。
そういうわけで、分かり易く親しみ易い作品とは一線を画す、観客に対して多いに問い掛ける作品。私は知識が浅く、表面的なことしか捉えられないので、戯曲の本質を理解できたかは自信がありません。
男性や年配の観客が多く、しんと静まり返った銀河劇場が印象的でした。

私は最初からやや少佐寄りの視点で見ていましたが、それでも一幕は、少佐の執拗な尋問にいささか辟易する気持ちが湧きました。
それが、二幕のアウシュビッツの映像を経て、少佐の完全記憶力が正に呪いだと分かると、今度は少佐の追及も致し方ないように見えました。あの映像は、そのくらい衝撃的です。でも私は、その衝撃を忘れることができるけれど、少佐はそれができない。だから音楽に安らぐことなんて有り得ないんですね。

以下、キャスト別感想。
台詞や沈黙の間、掛け合いの妙がすべてという、技量がないと支えられない戯曲でしたが、全体的にレベルの高い役者陣でした。
とにかく喋る役で、台詞回しが命のアーノルド少佐@筧利夫。走る台詞廻しが、他の人々から少し浮いている感じを表していたのかも。そして、調子良く捲し立てている時より、すっと声が静まった時の方が恐かったです。芸術への無理解や否定、厭らしいところを、役者の愛嬌が補ってるかな。
エンミ@福田沙紀は、女性らしい繊細な演技。ただ、本作の役者陣で唯一台詞回しが覚束ないかな。でも元々映像主体の方のようなので、不満はありません。
錯乱と正気を行き来する難役タマーラ@小島聖は、文句なしの巧さ!と思いました。出番は短いけれど、印象的。でもこの作品における彼女の役割って、あまりない気がしました。
ヘルムート@小林隆は、第2ヴァイオリン奏者の説明を求められて「第1ヴァイオリン奏者ほど巧くないということです」という一幕の台詞が、その時は笑えたのだけれど、二幕での心情を知ると凄い自嘲だと分かります。弱さと強かさの比率が真に迫っていました。
ウィルズ中尉@鈴木亮平は、好青年なんでしょうけど、軍人向きではないように思いました。
そして、フルトヴェングラー@平幹二朗。最初に登場した時の圧倒的な存在感と、信念を折られてただの老人となった後のオーラの消失具合に唸らされました。もう、彼には死ぬしか道は残ってないですよね……(史実は別として)。

実は、フライヤーチラシの段階では戯曲を知らず、「国民の映画」みたいな作品かな、と勝手に想像していました。
当日までに各種情報や初日の劇評を観て、身構えておいて良かったです。舞台を楽しむには、ある程度の予習がやはり必要だと実感しました。

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