阿部智里著「烏に単は似合わない」
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【あらすじ】
世継ぎの若宮の妃候補として、大貴族四家から姫君たちが桜花宮に登殿した。姉の代わりに急遽登殿した東家の二の姫・あせびは、教養不足を他の姫君や女房から当て擦られ気後れしていたが、若宮が幼い頃出逢った少年だと気付いたとき、恋が始まるーー

タイトルと文庫版表紙、最初の数ページをザッと読んで「ファンタジー王朝物」の大人向けライトノベルと見当をつけ、読みました。
その点を前提としての、感想です。
ちなみに、今回のあらすじはミスリード感たっぷりにしておきました。

序盤は、4人の姫君の誰が入内するのか、という「後宮小説」のような雰囲気。主人公は高貴の姫だが父親が権力争いから遠いという辺りは「彩雲国物語」みたいだし、主人公が周りから教養がないと蔑まれているのは「なんて素敵にジャパネスク」みたいで、いいとこ取りの作品なのかな、と思いながら読み進めていたのですが……
終盤、若宮が登場してから「え!?」の連発。
序章からのミスリードと、終章でのオチはちゃんと決まっているし、意外な結末でもう一度読み直したりもしたのですが、個人的にはどうにもモヤモヤしてしまいました。
「秋」のラストで突然ガラッと話が変わったところは惹き付けられましたが、どうせなら最初から4人の姫君を平等に描いて欲しかった気がします。

このモヤモヤ感の理由は明らかで、この作品は「ファンタジー王朝物」を装いつつ、実態は「推理小説」なんですね。
しかし、最終章で探偵役が突然登場し、全てを暴くという構成になっているくらいなので、読者に与えられる推理材料が乏しい。初読で違和感を覚えたのは、「秋」で真赭の薄が襲われた事件と、「冬」で明かされる一巳の台詞が食い違っているところくらい。それにしても、初読時点では推理小説だと思っていなかったので、推理するという発想に至りませんでした。
そもそも、ファンタジーとミステリーの相性が悪いことは、良く語られていますし、私もそう思います。本作の世界観設定などは凝っていて面白いので、雰囲気造りは良くできているけれど、推理物に敢えてする必要はあったのかしら、と疑問に思いました。

真赭の薄は最初は高慢だけど筋の通った美女だし、浜木綿は姉御キャラで格好良かったです。
探偵役でもある若宮は、焦らし続けて最後にやっと登場しておきながら、録でもない男だったのでガッカリしました。私ならこんな男に嫁ぐのは御免です。入内が決まった彼女に少し同情してしまいました。まぁ、心底では両想いなんだろうから幸せなんでしょう。

最後に、重大なネタバレを含む不満を、続きに隠します。
本書を読む予定のある方は、回避をおススメいたします。

他の姫君の登場が遅いので、主人公はあせびだと思って読みました。
苦手なタイプのキャラクターだけれど、主人公だと思えばこそ、彼女の心情に寄り添い、応援するつもりで読んでいたわけです。
ところがそうして感情移入をしようとしていた対象が、自分の幸福のためなら悪意なく他人を蹴落とせる女だった、と判明して吐き気がしそうでした。
主人公が犯人というミステリーは幾つかありますし、私は気持ちよく騙されるなら構わないと思っていますが、こういう裏切りは私には合いませんでした。

それと、姉(双葉の君)の件まであせびの策略だったというのは不思議でした。
初読時点で、彼女が妃候補としてやる気を出すのは「春」の最後だと感じたので、導入はあくまで偶発的なもので、桜花宮に来てから「運命」を感じたことで自分の正当性を信じて次第に……という展開だったら、もう少しあせびを理解できたかもしれません。
結局、子供の頃に会った少年が若宮だと、あせびは知っていながら、早桃も読者も騙していたというわけなら、推理の余地はどこにあるのか疑問です。

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