荒川弘版 漫画「アルスラーン戦記」10巻
収録エピソードは、原作「汗血公路」の1章から3章序盤あたりまで。具体的には、ザブール城攻防戦の続きや、ダイラムでの局地戦などがメインです。
表紙の銀仮面卿は、ザブール城の顛末があったので直接の出番も存分にありましたが、それだけでなく、ミリーナ内親王を通じても存在感を発揮していて、今回の表紙に相応しい活躍だったと思います。
いつも感心していますが、今回はこれまで以上に漫画アレンジによる原作補完が素晴らしいと思いました。
まず冒頭の、サンジェ(偽密書を摑まされた魔道士)が尊師から有難いお言葉を賜ったシーンは、1ページめくったところでサンジェ共々驚愕させられるという、絵で表現する漫画ならではの工夫だと思いました。
ヒルメスが仮面を外してみせた理由や、火攻めの中で恐怖を克服しようと成長している姿など、主人公のライバルとして魅力が出てきたと思います。かと言って完全に格好良いライバルキャラクターになってしまっているわけでなく、サームがアルスラーンに対して付けてしまった殿下という呼称を訂正させる狭量さとか、相変わらずなところも織り込まれています。だから、一癖ある連中が「ヒルメスは駄目」で「アルスラーンは良い」となることが頷けるのですよね。
まぁ、ヒルメスの狭量さは流離して身についたものだと思うので、普通に王宮で育っていれば、原作でサームが考えた通り、良い王様になっていた可能性は高いと思いますけれど。
また、ミリーナが姉の犠牲によってマルヤムから落ち延びた顛末(回想)は、原作では触れていないところですが世界観を崩すことなく、良いエピソードでした。
この話があることで、女官長ジョヴァンナも、単なる「喰えないおばさん」ではなくなって、人間として魅力が増しますね。
でも一番奮っていたアレンジは、ナルサスの絵が、かつての領民の命を救ったところですね(笑)。
アルスラーン陣営の新キャラクターも続々登場。とはいえ、この辺のメンツはアニメで先行公開されていたので新鮮味はないです。
アニメでは割と普通のイケメンだと思ったメルレインが、終始ヘの字顔で、面倒くさい性格が顔に表れていて良かったです。確かに、原作でも「不平顔」って頻繁に書かれてますよね。それでいてゾット族の論理を公言して憚らない辺りのギャップが、面白い男だと思います。よく考えたら盗人猛々しいって感じなのに、憎めません。