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P.G.ウッドハウス著 森村たまき訳「比類なきジーヴス」

恋に落ちやすい親友ビンゴが結婚に至るまでの間に、主人公バーティーが巻き込まれるあれこれを描いた、18の短編連作。寝る前などに少しずつ読み進めるのにいい構成でした。

ウッドハウスは「ウィットに富んだユーモア小説の大家」であり、思い掛け無い人物や物事が繋がっていたり、思いがけない伏線が明らかになったりする物語構造は確かに感心しました。しかし笑いに対する人種的な嗜好の違いなのか、私は心から楽しむことができませんでした。
主人公バーティーは確かにダメな男なのですが、こうも虚仮にされてると、可哀想に感じてしまったからです。
他人に迷惑をかけておいて一切悪気がないビンゴが不快なのはまだしも、ジーヴスが遣える主人を敬っていないように見える点に引っ掛かってしまいました。

引っ掛かった要因は、本書でジーヴスを「執事」と訳している点にある気がします。
そもそも読んでいる最中、ジーヴスは主人の旅行先まで一緒に行くので、家の中のことを取り仕切る執事とは職域が違うと不思議に感じてました。この疑問の答えは、本書の訳者あとがきにあり、それによると彼は「Butler」ではなく「Gentleman’s personal gentleman」を名乗っているとのこと。原書では「Valet」も使われているとわかって、だいぶ印象が変わりました。
訳者は「家僕」「従僕」では軽々しいからあえて「執事」を選択したそうですが、ジーヴスは割とちゃっかりした性格だったり、主人の世評を落としておいて丸め込む辺りは多少馴れ馴れしい関係性に見えるので、素直に「従者」で良かったように思います。それなら、若い策略家とお調子者のコンビ物として、だいぶ違う印象で読めて、ジーヴスが主人に滅私奉公していなくても受け入れられた気がします。

言葉に対する印象は個人差があるので、執事で違和感ない、という意見もあるでしょうが、私としては、原書で読む語学力があれば、もっと楽しめたかもしれないなと感じました。

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