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赤堀さとる著「うそつき光秀」

聞き覚えのある著者名だけれど、同姓同名の別人だろうーーと思いきや、あかほりさとる先生本人でした。
ライトノベル出身で一般図書に移行する作者は過去にもいたけれど、そういう方は元々一般向けっぽい作品を書いていたと思うので、まさかあかほりさとる先生が歴史小説を書きたいと思っていたとは驚きでした。
一般図書の作者経歴で、爆裂ハンターやラムネの名前を見るなんて、実に愉快ですね。

平易で読みやすく、序盤の十兵衛が突っ走っている間は文にも勢いがあり、それでいて内容は手堅く楽しいエンタメ本でした。

光秀モノの醍醐味は、なぜ本能寺の変を起こしたかの理由付けにあると私は思っています。
しかし本作の場合は、自身の出自に関する嘘を守るためだと直ぐ分かるので、ほぼ最初から理由がわかっている状態でした。いままで見たことがないくらい、シンプルな理由です。
その代わり、光秀という偽りの武士を作り上げた伊勢貞良とどこで決裂するのか、或いはしないのか、信長が秘密を知るのはなぜかという点に期待しながら読み進めました。

全体的には、出自に謎の多い明智光秀を、嘘で塗り固めた人間として二重の意味でうまく作り上げていたと思います。
ただ、着想だけで最後まで突き進んでいる物語なので、話の厚みはないです。また、十兵衛のキャラクターにあまり魅力がなく、他には信長と貞良、精々義昭くらいしか、この作品ならではのキャラクターがいません。あれだけキャラクター小説を書いていたあかほり先生の作品としては意外でした。
また、嘘をつく理由だった理想を捨て、貞良を殺してから、信長暗殺に踏み切るまでのくだりは、少し停滞していたかもしれません。退屈な箇所もありました。

しかしこの作品は、ラストでぐっと味わいを出し、見えていなかった伏線にも気付かされ、評価が跳ね上がりました。
結末はわかっていても、信長を殺す必要なんてなかったのに、精神的に追い詰められて、自ら安泰を壊してしまった十兵衛に嘆息しました。
バレたら身の破滅だと思うほどの秘密とは、バレる以前に、作った時点で破滅を呼び込むものなのかもしれませんね。そして、そこまでして守ったつもりの秘密が、実は結構な人数に最初からバレバレだったということが、「ものの哀れ」的な味わいになっていたと思います。

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