アイドルマスター SideM GROWING STARS 百々人バージョン

GROWING STARS

 真夜中に、目が覚めてしまった。
 そのことに恐れを抱いて、百々人は息を潜めた。

 目覚めはいつでも怖い。
 朝、太陽を浴びながら目が覚めると、なんの才能もない自分が生きる価値を証明しないといけない1日がまた始まることに絶望する。
 夜、暗闇に包まれながら目が覚めると、この世界でひとりぼっちな気がして、誰にも認めてもらえないままの自分は生きていられないと思う。
 百々人が眠り姫だったなら、喜んで永遠の眠りにつくだろう。でも現実には眠り続ける祝福など百々人には与えられず、今日は真夜中に目が覚めてしまった。
 このままだと、静まり返った夜の重さに潰されてしまう。

 ーーぴぃちゃんの声が聞きたい。ぴぃちゃんに、生きていてもいいと言って欲しい。

 百々人は充電中のスマホに縋り付いた。もちろん、こんな時間にプロデューサーに電話するなんて、百々人には許されないことだ。でも、百々人にはこんな日のためのお守りがあった。
 レコーダーアプリを起動して、保存されているファイルをタップする。
 雑音がしたあと、百々人が期待した通り、少し遠くでプロデューサーが話し始めた。
 一昨日の打ち合わせ時に録音した音声だった。
 百々人はいつもプロデューサーの正面に座るから、左耳からプロデューサーの声が聞こえることを少し慣れないと思いながら、耳を澄ませてプロデューサーの声を聞く。C.FIRSTの今後のスケジュールについて話している、ただの業務連絡だけれど、先の話をしているプロデューサーの声を聞くことで、その日まで百々人の存在が望まれているということに安堵できた。
 でも、まだ足りない。プロデューサーの声が遠い。録音する理由が説明できそうになくて、机の下でこっそり撮った音声だ。机に遮られてしまったらしい。もっと近くないと、幻のように消えてしまいそうだ。
 そう思って音量を上げた瞬間、突然それまでの三倍くらい大きな音がしたものだから、百々人は思わずスマホを取り落とした。
 プロデューサーの声ではない。ユニットメンバーの眉見鋭心の声だった。驚いたけれど、別段、眉見が特別大声を上げていたわけでない。隣に座っていたから、膝の上に置いたスマホによく声が入ったのだろう。
 録音の意外な難しさを実感しながら、停止ボタンを押す。その動作でふと、隣の席からは録音中のスマホが見えていただろうことに気付いた。
 打ち合わせの帰り際、情報流出に気を付けるように眉見から言われて、百々人はよく分からないまま頷いたのだけれど、あれは録音データのことを言っていたのか。プロデューサーと交わした契約書には、守秘義務の項が色々とあったはずだ。百々人としては、プロデューサーの声を保存できれば内容はなんでも良かったから、業務に関わる話だなんてことは配慮もしていなかった。
「……マユミくんには、変な場面ばっかり見られてるな」
 気付いていて取り上げられなかったということは、一応、信用されているのだろうか。そうだったら、いいのに。

 先日の撮影でC.FIRSTは騎士に扮したけれど、あれは眉見のイメージだった、と百々人は思う。もちろん、百々人も精一杯頑張ったし、プロデューサーには褒めてもらえたけれど、そもそも百々人は、騎士なんていう高潔な存在とかけ離れている。天峰は想像より凛とした姿だったが、やはり生意気そうな雰囲気が隠せておらず、忠誠心に疑問が残る。その点、眉見は装う前から騎士だという説得力があった。
 誰かの期待、憧憬、それから嫉み。そうした己に向けられるものをすべて拾い集めて背負いながら、力強く真っ直ぐに立っている。
 あれこそ、闇を切り開く騎士の姿だ。……でもマユミくんは、武士の方がらしいかな。そう思った後、百々人は少し笑った自分に気がついた。

 スマホの画面が暗くなり、世界は闇に閉ざされる。けれど、今度の暗闇は百々人を脅かさなかった。プロデューサーの声で落ち着いたからかも知れないし、あるいは驚いてスマホを落としたときに、恐れもどこかに落としたのかも知れない。まだ夜は続いているけれど、いまならば耐えられそうだった。
 百々人は息を吐くと、絶望の朝を待つため、もう一度布団に潜り込む。そして目を瞑る前に、次はプロデューサーとの電話を録音しようーーと決意した。


315プロのみんなについてまだ勉強中だから、ホームに来るアイドルはランダム設定にしています。
百々人が朝時間帯(推定)に話す「……たまにね、朝目が覚めた時に、何で起きちゃったんだろうって思うことがあるんだ。」という台詞に、ホーム画面で聞くには重すぎる打ち明け話じゃないか、と思うと同時に、朝が憂鬱なら、夜に起きたらパニックになるんじゃないかと考えた、酷いプロデューサーは私です。

GROWING STARS

花火フォト(限定SR)のセリフを見て、アイドル活動で少しは百々人の心の隙間が埋められるのかもしれないと期待したら、このセリフを言う音声が「アイドル百々人」という虚像が喜ばれているだけ、と思っていそうな感情を乗せていたので、ヒエっとさせられました。
鋭心は百々人をよく評価して、褒めたりしているのに、百々人にいまいち響かないのは、鋭心がまだ18歳だから、親を求めている百々人とマッチングしないのかもしれませんね。

色々パターンはあったけれどどれもオチが付かなくて、先に秀バージョンを書くことになったのは、前回日誌の通り。
夜中に百々人が起きた、というシチュエーションの他にはなにも考えず書き始めたのに、録音データの存在はするっと登場した辺りに、私が百々人をどう捉えているかが現れているなと思います。
録音行為自体は犯罪でないけれど、相手の許可を取ろうね、百々人!

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