アイドルマスター SideM GROWING STARS 翔太の話
エピソードゼロ第2話にて、翔太の姉の1人がイラスト&ボイス付きで登場した驚きを切っ掛けに、まだお互いを理解し切っていない頃のJUPITER3人が会話をはじめました。
「もー、北斗くん、そういうことしないでよ」
見送りに来た姉をバスから追い出した後、翔太は膨れっ面で向き直った。年下の仲間がするこの仕草を見る度に、冬馬は動物園で見たリスを思い出す。
「もうわかってると思うけれど、2番目の姉さんは北斗くんのファンだから、すぐ舞い上がっちゃうんだよ」
「ごめんね。翔太のお姉さんたちが魅力的だから、つい声を掛けたくなるんだ」
肩を竦めている北斗の様子に、こいつ、反省してないなーーと冬馬は思ったが、まだ為人が掴めていない年上相手に突っ込めるほどノリの軽い男でなかったので、彼にできたのは黙っていることだけだった。
それに、一人っ子の冬馬にはもっと気になっている謎があった。
「なぁ翔太」
どちらかと言えば、年下の少年の方が話しかけやすいこともあって、この呼びかけは自然にできた。
「お前、姉貴が3人いて、呼び分ける時どうしてるんだ?」
お姉ちゃん、と呼んだら3人とも反応するだろうし、1番だ2番だと順番で呼ばれるのも本人たちは複雑じゃないのだろうかーーと悩んでいた冬馬に対し、翔太の返事は極めて簡素だった。
「え、普通に名前をつけて呼ぶに決まってるじゃん」
変な冬馬くん、と付けたのが悪意でないことはわかった。けれど馬鹿にされた感は拭えず、冬馬はムッとして言い返す。
「だってお前、いつも何番目の姉さんとしか言わねーじゃねーか」
「当たり前でしょ」
翔太が生意気にふんぞり返った。
「僕がトップアイドルになったとき、家族の名前とかバレてたら、うちの家族が芸能記者に追っかけられたり変なファンに付き纏われたりするかもしれないでしょ。自衛だよ、自衛」
そこまで言ったところで、ふと視線が彷徨い、翔太は冬馬と北斗を上目遣いで窺った。
「あー、……別に、冬馬くんと北斗くんを信じてないってわけじゃないからね?」
冬馬は、アイドルとして活動することで周囲に及ぼす影響なんて考えたこともなかったので、一番適当な奴だと思っていた翔太の意外な一面に驚くばかりだった。そして、その自衛行為がユニットメンバーへの信頼の欠如と捉えられる可能性にまで気を回されたことに、戸惑いもして、咄嗟に反応ができなかった。
代わりに、北斗が頷いた。
「うん、わかっているよ」
本当かよーーと反発心もあって思ったが、そういえばこの男は、翔太の姉たちを褒めそやしはするが、名前や職業を聞くことはなかった。ナンパ野郎ならあれこれ質問しそうだと思っていたのだが、配慮していたのかもしれない。
「どちらかというと驚いたな」
そう続けた北斗の声は、まるで他人のことを話している風で、本人が言うほど驚いていないように聞こえた。
「翔太はすごく自然に、トップアイドルになれるって思ってるんだね」
ーーお前は目指してないのかよ、と聞けるものなら、冬馬は言いたかったのだが、翔太の方が早かった。
「えー。僕がなれなかったら、誰もなれないでしょ」
ーーお前はお前で、自信ありすぎだろ!? と、突っ込まざるを得ない。
どちらから反応すべきか冬馬が悩んでいるのを、百面相だと指摘して、翔太は無邪気に微笑んだ。
「それに加えて、冬馬くんと北斗くんがいるのに、なんでトップになれないと思うの?」
「僕がなれなかったら」云々は、961時代の翔太のキャッチにあった台詞「僕がトップアイドルになれないなら、他のみんなも全員ダメでしょ」からきています。こうしてみると、翔太はC.FIRSTの秀に負けず劣らずの自信家ですね。マイペースだけど、実は無茶苦茶「アイドル意識」が高くて格好いいと思います。
アイドル天ヶ瀬冬馬は物怖じしないけれど、素の冬馬は人見知りの気があると私は思っているので、この頃は2人にあまり突っ込めない代わりに、心の声が忙しいことになりました。まあ、そのうちこれくらいガーガー言うようになるんですけどね。
一番オープンで裏表がないのは冬馬だけれど、翔太も割と素直だと思います。だから翔太の末っ子悪戯っ子気質を、一人っ子の冬馬が受け止められるようになりさえすれば、直ぐ打ち解けられたでしょう(受け止められなくても、それはそれで「冬馬くんおもしろーい」で翔太的には楽しそう)。
北斗は達観している分、若干面倒くさいタイプだと思うので、彼が2人に心を開いた瞬間が知りたいです。そう思ったことで、北斗も「青の系譜」なんだなと急に腑に落ちました。