アイドルマスター SideM GROWING STARS 限定SSR鋭心「荘厳なる輪舞曲」のLINKより

GROWING STARS

たぶん既に100万人くらい書いてるネタ。

 今日も個人練習の撮影を頼みたいーーと言われる前に、秀はハッキリと告げた。
「よかったら今日は俺、踊りますよ」
 1週間前、社交ダンスの経験はないからと相手役を断った後輩がいつ習得したのか、少し驚いたらしい鋭心に、用意してきた言葉を伝える。
「先輩の練習に付き合って動画を見てるうちに、ステップは覚えました」
 俺、天才なんでーーといつものフレーズも添える。隣の百々人が密かに苦笑したのが分かったが、秀は無視した。
 無論、見ているだけで踊れるようになったなんて、大嘘だ。プロデューサーに頼んでお手本動画を自分にも送ってもらい、この3日、百々人にチェックしてもらいながら密かに練習した。お陰で鋭心の足を踏まないくらいにはなった、はずである。
 少なくとも、一人で踊る鋭心と動画を見比べながら論評するしかできなかった1週間前とは違うのである。
「この前ピエールが、シャドーでばっかり練習しない方が良いって言ってたでしょう。だからーー」
 鋭心がワルツの練習をしていると聞いて、ピエールがやってきたのは4日前のことだ。弟の練習に付き合ったから女性パートも踊れるんだとか言って女性役で鋭心と一曲踊った後、的確なアドバイスをして帰って行ったので、秀も百々人も驚いた。
 その驚きが、秀の負けず嫌いに火を付けたのだと言っていい。C.FIRSTのメンバーに付き合ってもらった練習を有意義だったと、鋭心に思わせたい。1回顔を出しただけのピエールには負けられない。
 ところが、秀の意気込みと裏腹に、鋭心は別のところに意識を向けた。
「すまない。ステップを覚えるほど長時間、個人練習に付き合わせていたか」
「いやっ、違いますよ俺天才だから、2、3回見るだけで十分なんで」
 負担など掛かっていないことを主張したくて、秀は口早に言い募る。言ってしまってから、さすがに盛り過ぎたかと危惧したが、鋭心は素直に頷いた。
「そうか、さすがだな」
 安堵と実力を認められた嬉しさで秀が表情の選択に困っているうちに、目を細めた鋭心は、それならーーと思いがけないことを言い出した。
「実は、ワルツに加えてタンゴも踊ることになってな。ぜひ秀に動画を見てもらって、合わせて欲しい」
「ーーはあっ!?」
 タンゴ? タンゴって、どんなダンスだ? 何拍子だ?
 いくら秀が天才だと言っても、決して踊りの天才ではない。3回映像を見ただけで、即再現できるわけがない。
 秀は思わず百々人に助けを求めーーそこで、気が付いた。
「ちょっ、百々人先輩、なに笑ってるんですか」
 百々人は腹を二つに折った姿勢で、無言のまま笑っていた。なんとなくその姿で察するところがあって、半目になっているのを自覚しながら、そのままもう一人の先輩に向き直る。
「鋭心先輩、アンタ、適当言いましたね?」
「そうだな、すまない。嘘だ」
 ついでに言っておくと、俺もタンゴは踊れない。と鋭心は明かしてくれたが、それは心底どうでもよい情報だと秀は思った。平然とした顔で頷かれると、怒る気もしない。
「まあ、アマミネくんの『3回見て覚えた』も嘘だから、おあいこだよね」
 一緒に偽装する仲間だったはずなのに、いつの間にか裏切っていた百々人には怒りたいところだと思いながら、秀は渋々認めた。
「……そうですよ、ワルツは練習してきました!」
「俺の仕事のために手間をかけさせたな」
 手間をかけたのは違いない。特に昨日は集中しすぎて、いま遊んでいるゲームの夕刻分のログボを逃したので、スタミナ回復剤一個の損失も加わっている。百々人にしても、ほぼ毎日プロデューサーの仕事が終わるか、18歳未満が帰される時間まで大体事務所に居残っているから、秀に付き合うのは負担でないと言っていたが、本音はわからない。
 だけれど、自分がしたいと思ってしたことだから、秀は苦ではなかった。いきなりワルツが踊れるようになったと言ったら、鋭心を驚かせられるかもしれない、と思うのも楽しみではあった。そして勝手にやって楽しんでいた行為に、不要な負い目を感じて欲しくないから、練習のことは伏せようと思ったのだ。
 だが、鋭心は秀が思っていたよりも真面目で真っ直ぐな男だったらしい。申し訳ない、悪かったーーと繋ぐことはしなかった。
「ありがとう。秀、百々人」
 ファンに向けるよりも優しい笑顔を返すのだから、狡いと思った。
「別に、鋭心先輩が今度の撮影を完璧にこなしてくれれば、ユニットの評判も上がりますし」
 説明しながら、百々人にもそう語って練習に付き合ってもらったことを思い出した。なんだか俺、素直になれないツンデレキャラみたいに見えてるんじゃないかーーと気付いて、秀は急に気恥ずかしくなった。少なくとも百々人は、そういう話にも知見がありそうだった。
 鋭心の方は、どうだろう。ひとまず彼は、秀の羞恥は指摘することなく、自分のなすべきことを見据えて頷いた。
「そうだな。お前たちの期待に必ず応えよう。ではーー」
 手が差し伸べられる。秀のものと比べると一回りは大きく、大人に近い、頼り甲斐のある手だ。しかし、秀は彼に引っ張ってもらいたいわけではない。
「踊っていただけますか」
 望むところだと、秀はその手に挑んだ。


可愛い秀と、ノリの良い鋭心になりました。
我ながら、秀には「俺、天才だから」と言わせておけば良いと思っている節があります。ドヤ顔が可愛いと思っているから仕方ないですね。
秀と百々人が仲良すぎた気もしますが、百々人が裏事情を知らないと、天才発言に「わあ、アマミネくんって凄いな」と微笑みながら密かに傷つくだろう、と思いました。そして、それを察知した鋭心は冗談など言わないから、話も発展しないし、3人がギクシャクするだけです。
それよりは、C.FIRSTがコソ練とコソ練を重ねて、仲良く実力をつけていくところを見守りたいと思います。

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