アイドルマスター SideM GROWING STARS 10年後C.FIRST妄想SS

GROWING STARS

未来設定です。ご注意ください。
ライブ前に考えたネタということもあり、現在キャラクター解釈は少し揺れていますが、そもそも10年後の時点で妄想なので気にしないことにしました。

 ユニットメンバーとして10年も過ごせば、お互いの人間性は見えてくるし、どこまで許容されるかわかって、遠慮も薄れるものだ。それが酒の席ともなれば、尚更である。
「マユミくんってバカだよね」
 しかしその発言は遠慮がないを通り越して、さすがに無礼でないだろうか。凡そ、眉見鋭心という男が言われたことのないだろう評価に、秀は思わず擁護を買って出ていた。
「天然だったりはしますけど、バカとは違うんじゃないですか」
 百々人は酒を煽ると、鼻で笑うのと、溜め息を吐くのと、中間に漂うような吐息を返した。妙なところが器用な男だ。
「あのね、アマミネくん」
 それでいて、表情は子供を諭すような優しい微笑みだった。
「マユミくんが、林檎を2つ持って旅に出るとするでしょ?」
「……はぁ」
 秀はひとまず頷いた。随分唐突なたとえ話だったし、旅に出るのに荷物が果物だけとは、軽装すぎると思ったが、ここで口を挟むと面倒なことになりそうだったので、思うだけに留める。天才は、未来を予測できるものである。
「ところが、旅の途中でお腹を空かせたアマミネくんに会ったら、自分は2つ持ってるからって言って、アマミネくんに1つあげちゃう」
 この人たちの中では、俺は腹を空かせた高校生のまま時が止まってるんじゃないかーーと秀は思ったが、いまの本題でなかったので、これも流すことにした。
「さらにその後、お腹を空かせた僕に会ったら、自分は2つ持っていたからって言って、僕に1つくれるの」
「さすがにそこまではーー」
 しない、と言い切れずに秀は口籠った。
「マユミくんは、アマミネくんに一個渡しておいて、僕には半分だけなんて絶対しないよ」
 百々人が自信満々に言うのを見て、秀は10年という時の偉大さに感心した。
 どこか自信がなく卑下するばかりだったこの先輩に、周囲から大事にされている自覚が芽生えたのはいつだっただろう。プロデューサーが、秀が、鋭心が、せっせと百々人に注いだ「貴方が大切だ」と言うメッセージが、実を結んで今の百々人を形成している。
 だからこそ、花園百々人は眉見鋭心をバカと言い切るのだと、秀は理解した。
「持ってるものを全部人に分け与えちゃうなんて、バカとしか言いようがないでしょ」
「……言いたいことはわかる気がします」
 その姿勢は博愛の精神と賞賛されるのかもしれないけれど、秀からすれば、鋭心が鋭心本人を蔑ろにしているように感じるところがあった。自分を大切にすることを知った百々人ならば、尚更かもしれない。
 それ以上の反証を諦めて、秀は話題の人物に目を向けた。
「鋭心先輩、なにか言うことないんですか」
 ーーそう。鋭心は最初からこの場にいた。ただ、百々人が詰りはじめた時は、ちょうどツマミを口にしたところだったので反応を秀に任せたのだ。口の中に食べ物がある間は喋らない、というマナーは基本だが、鋭心はそういった所作が10年前から完璧だった。
 ただし、その後一旦手を止めておきながら、会話に参加することなく食事を続けたのは、単に反論するのが億劫だったのでないかと秀は疑っている。
 二人の視線を集めた鋭心は箸を置き、飲み物を飲んで喉を潤してから、ふむと口に出した。
「つまり、林檎は3つ持って出掛けろということか」
「違います」


結成から10年くらい経って、自己肯定感を手に入れて、ユニットメンバーに対する遠慮がなくなったら、メンタル属性の百々人が一番強いだろう。と思ったら、彼が考える鋭心の「悪癖」について管を巻きはじめました。
当初は、眉見鋭心は「幸福の王子」(オスカー・ワイルド著)なのか?という切り口で考えていたのですが、秀も百々人もツバメにならないから安心だな、と思いました。
そして、実際の鋭心はりんごを譲らないっぽい気もしてきました(笑)。

GROWING STARS

なお、オチの「林檎は3つ」云々の鋭心先輩は天然ボケなのか、冗談を言ってツッコミを誘発し、そのまま自分に都合の悪い話題を流すという会話テクニックを使ったのかは謎です。10年後に図太くなっているのは、百々人だけでないと信じていますけれどね。眉見鋭心は幸福の王子でなく、生きた人間なので。

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