ミア・カンキマキ著、末延弘子訳「清少納言を求めて、フィンランドから京都へ」

清少納言を求めて、フィンランドから京都へ

読了した今でも、どんな本なのか説明が難しいと思う、不思議な本。
ジャンル的には、筆者が惹かれた「枕草子」と同じ、随筆ということになるのだと思います。助成金申請上は研究報告だったようですけれど、研究本というよりは、旅行記、日記、というジャンルに近いと思います。
本文478ページというボリュームに、話題があれこれ揺れる作りで、気侭に書いているように見えて、センテンスが短く読みやすい文章なので、飽きずに読めました。
これは、広告編集者だったという筆者の経歴も影響していそうですし、訳者のセンスも優れているのだと思います。

話はあちこちに飛んでいるようでいて、最初から最後まで清少納言を掴もうとする姿勢は一貫しています。「もののあはれ」の概念もわからないファンランド人が、日本人よりも遥かに深い視点で、平安時代の宮中のあり方や日本古来の美意識を探っているのが実に面白いです。

本書を読んでいると、自分が清少納言について知らない、ということを痛感します。特に、公になっている事実からすると、紫式部と同時期に宮廷勤めをしていなかった、というのは驚きでした。
一方、筆者はイマジナリーフレンドのセイについて、個人的な妄想で語っているかのように見えますが、ちゃんと読み進めていけば、可能な限り調べて考えた結果を記していることが分かります。
作中、セイが枕草子を「自分のために書いた」秘密の日記だったのに持ち出されて他人に読まれてしまったと記していることに対して、「騙されないわよ」と筆者が肘打ちしています。それは我々の感想にも繋がり、枕草子と本書、筆者と読者がお互いにリンクする構造になっているわけです。実に面白い一冊でした。

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