アイドルマスター SideM GROWING STARS 楽曲SS
Multiple Entertainment Show!(逆SEM)編
「では、みなさんの意見通り、観客と一緒に踊ることを前提にした振り付けに直します」
「よっしゃ!」
ステージを盛り上げる一案として、観客の学生たちと一緒に踊れる振り付けにアレンジするという類の意見が通った瞬間、ガッツポーズと共に喜びの声をあげたのは当の類でなく、次郎であった。
しかしーー
「ただ」
振付師が言葉を続けたことにイヤな予感を覚え、結んだ拳が解ける。
「ぜんぶ簡単にすると平坦な印象になるから、3人だけで踊るパートには少し難しめの振りも入れましょう」
こんな感じで、と言いながらフリを付けていく。
それを見た側の反応は、大きく分かれた。
「ワオ、coolだね!」
「えーっ、ムリムリ、いきなり難易度上げすぎですって」
特にジャンプは腰が怖い。次郎はぞっとして己の肩を抱きつつ、道夫を伺った。
「先生の指摘はもっともだと、私は思う」
そうだろうと思っていたが、思わず項垂れる。
「簡単な振り付けで楽しさを感じさせつつ、見せ場はより華やかな表現に挑戦する、その両方が揃えば我々のメッセージはより伝わると考えられる」
「あー、まぁ、それはそうなんですけどね」
そうは言っても、人には向き不向きというものがある。せめて、踊りが上手く体幹も鍛えている道夫や、若い類だけでやってくれないものだろうか。
そう願いつつ、けれど、実際はこの難しい振付を受け入れて、できるようになるまで努力してしまうのだろうと、次郎はすでに覚悟していた。なぜなら、硲道夫という男がやる気になっている以上、逃れる術はないと知っているからだ。
「我々は、歌とダンスで学生たちを輝かしい未来へ導くことと、レッスンの成果を見せることを約束したのだ。山下君、まずやってみないか」
「そうだよ、ミスター山下!」
こうまで言われては仕方ない。次郎が共に踊る相手は観客だけでなく、まず一号と二号がいるのだから。
気乗りしない表情は保ちつつ、次郎はレッスンを受ける気合を入れ直した。
新曲がとても楽しかったのと、みんなで踊ろうという割に、一緒には踊れないだろうと思われるフリが部分的にあったので、イベント最終日滑り込みで書いてみました。
次郎先生、お疲れ様でした。まぁ、類も言うほど踊れない方だと思いますけれど。
弊社の次郎先生は、いつも硲先生の理責め&情熱の複合技と、類のおねだりに一人負けしてる気がします……。