現在地:クリア(魔王城〜エンディング)
注意:重大なネタバレを含みます
元々このゲームは一本道なのですが、魔王城内からは、方向キーを「進む」(右)ボタンだけにされ、文字通り後退が許されないことになりました。
それに従って、勇者はとにかく右へ右へと突き進むだけ。道中2ページの敵は、イベント戦闘的な扱いで勇者が華麗なアクションを披露する演出でサクサク処理。完全に、魔王戦に向けた前座という扱いでした。
その代わりに、魔王戦はノート、現実世界、最後は黒板アートと、教室全体を使う演出盛り沢山の長い決戦で、さすがラスボス戦と感心する物量でした。
最初のノート上の通常バトルは、魔王の強さを実感させられました。
まず、無茶苦茶ダメージの通りが悪い! その上、どんどん攻撃不能範囲を広げて攻撃を弾いてきます。この調子だとダメージを与えられないと焦りました。実は私、うっかり食べ物を温存してしまったので、ステータスが完全体ではなかったのです。
全部食べておけば良かったなと、クリア後に思い出して悔しい思いをしました。
ただ、ミスを連続していても一定ターンで次の展開に進む感じだったので、ダメージ量は不問だったのかもしれません。
最終的に闇の力に完全に覆われた魔王が完成し、どうするのかと思ったらここで聖剣が力を発揮。
鉛筆攻撃が効かないので、剣の力を解き放ち(逆に持って)、消しゴムの方を使うという発想には膝を叩きました。
光の玉を保管せず食べちゃっていたらどうなったのか、ここも無茶苦茶気になります。
その後は、ノートから魔王や勇者が飛び出し、現実の世界で戦っていくスタイルに移行。
力の入った工作物がどんどん出てきては壊されるのは、迫力もあるし、これまでモノクロの戦いが主だったので、新鮮さもあってワクワクしました。
ただしレースゲーム勝負は……私がラジコン操作が無茶苦茶苦手ということもありますが、難易度が普通に高くて、周回遅れで負けました。
そのまま進行したので、勝っても同様に逃げられたのだろうと思います。
宇宙に逃れた魔王に攻撃を届かせるため、剣(鉛筆)を繋ぐことになったのは、どこでリサイクルされた剣の話を回収するんだと疑問に思っていたので、この最終局面で!と驚くと同時に熱くなりました。
正直、リサイクルの話は終着点が見えなかったので、魔界の湖の井戸でバトル石の成績発表されたように、記録だけされて終わりかと思っていました。
最後は、黒板アートの魔王に対してコマンドバトル。ここは各コマンドの演出を見せるイベントバトルという感じで、もう焦ることもなくじっくり楽しませてもらいました。
最後に黒板消しでダメージを与えるのは、とても気持ちよかったです。
その後の展開は、さすがにネタバレなので詳しい言及を避けますが、初見では、まさかこのビターエンドで結末なのかとビックリしました。
特にプレイヤーが操作できる最後のページは、魔王城突入時に方向キーを右だけにしたのは、このシーンのためだったんだと分かって震えました。
まさか、プレイヤーの手で姫を自殺させるのか……?とビビって、最後の一歩を踏み出す手前でしばらく悶々としたくらいです。万一そんなラストだったら、けんたくんの肩を掴んで揺さぶるところでした。
ギリギリのところで、仲間達が駆けつけ、姫を絶望から救い出してくれたのはホッとしました。魔界突入で置いてきてしまったから、もう彼らの出番は終わりと思っていたのですが、最後の最後に頼りになりました。
そのまま、ちゃんとハッピーエンドに到達。
ずっと右へ進んでいた勇者が、今度は姫を連れて左へ左へと戻っていく帰りの旅路は、まさにRPGのエンディングでした。
最終ページはカラー。「風のクロノア」のエンディングで世界が再生された時のような「世界の美しさ」の表現になっていて、このページに辿り着いた瞬間、グッときました。
総評としてはーー
実は、2章「旅立ちの町」中盤辺りまでは、勇者の動きのぎこちなさ(足の遅さ含む)など、テンポの悪さが気になってあまり没頭できず、そこまで絶賛される作品だろうか?と思っていました。感想記事の1〜3の間隔が長かったくらい、純粋にプレイ意欲が湧きませんでした。面白くなったのは3章「迷いの森」からです。
とはいえこれは、内容がそこから面白くなったというわけでなく、「旅立ちの町」をクリアする過程で、このゲームの付き合いかたが理解できたからです。
このゲームは「RPGタイム」という名前で一瞬RPGと勘違いしてしまうけれど、実際はけんたくんが描いた通りに演出を見るだけの一本道アドベンチャーです。極端なことを言えば、丸ボタンを押してるだけでエンディングまで辿り着くノベルゲームの仲間みたいなものです。だから自由度とかプレイヤースキルを磨くとか、そういった部分に楽しみを見出すプレイヤーには、全く面白くないゲームだろうと思います。
でも、「小学生が友達の作ったノートRPGで遊ぶ」という箱庭遊びをしている感覚は、このゲームでしか味わえない卓越したものでした。
自分も教室でけんたくんの力作を楽しませてもらっている感覚でノートに向き合うと、そのアイデアや表現の巧みさに惚れ惚れし、「けんたくんは凄い」と友達を誇らしく思うような気持ちにすらなって、とても楽しかったです。
もちろん、ノートに手書きした絵はこんな風に動くわけないのですけれど、不思議なリアリティがあるのです。全体的にびっくり箱みたいな作りなのも、小学生の「あれもこれもやりたい」気持ちが詰め込まれた結果みたいだったと思います。
開発者がやろうとしていることが明確で、しかもそれがキチンと表現もできている、インディーとして非常に秀逸な作品でした。