宝塚雪組「蒼穹の昴」15:30回観劇(VISA貸切)。
原作未読。観劇後に、原作とは主人公が違うと聞いて驚きつつ納得しました。
1幕は視点や話の時間軸が頻繁に変わるので、話が軌道に乗るまでちょっと散逸な印象、2幕は展開が急で、各エピソードにぶつ切れ感があり、脚本はあまり感心しませんでした。また情報量を詰め込むためか、冒頭からセリフの山で、歌はないのか?と疑ったくらいです。
しかし人物設定や時代は魅力的でしたので、原作には興味が湧きました。読んでから観劇した方が良かったかもしれません。
衣装やセットは豪華で、宝塚を観た満足度はありました。
軸の話は歴史上の出来事なのでついて行けましたが、清朝末期の出来事には馴染みがなく、西太后、李鴻章、袁世凱など多少知っている名前を頼りに記憶を呼び起こしながらの観劇となりました。
清朝末期に日清戦争があったのだから、日本でいう明治時代であることは自明なのに、ビジュアルがいかにも中国ものという弁髪や衣装だったのでもっと古い時代の話のように感じてしまい、記者クラブが登場した時の洋装に、一瞬時代のズレを覚えました。中国ではずっとあのスタイルを保っていたと考えると、すごい時代錯誤だなと思ってしまいました。
雪組生には元々馴染みがないので、色々不安に思っていたのですが、予想外の「専科祭り」だったので主要人物は把握できたし、テンションも上がりました。
ただ6人も専科が出演すると、組ファンは複雑ですよね。白太太や楊喜楨は組子でも良かったんじゃないかと思いました。
梁文秀@彩風咲奈は、正直に言うとこれまで全く私の目に入ってこなかったスターです。2番手になった時にも驚いたし、望海風斗トップ時代の雪組を観ていてなお「顔が覚えられない」くらい印象に残りませんでした。そのため、前述の不安の中にはトップ男役が見分けられなかったらどうしよう……というとんでもない危惧が混ざっていたのですが、舞台の真ん中で笑顔を見せる彩風は、キラキラとしていて、まるで漫画表現みたいに星を放っているみたいな具合で、スターだなと感じさせられました。そして、銀橋での歌唱の力強さに望海風斗の跡を感じて、ちょっと胸を打たれました。
文秀という人物自体は、ちょっと設定に対して話の中でやっていることが弱い印象でした。改革の旗手であるべき立場なのにずっと受け身だし、光緒帝に「順桂の死を無駄に」云々と諭すあたりは、暗殺反対派だったくせに状況が変わったら帝を動かすために順桂を殉死扱いしているように見えて、それでいいのか?と思ったくらいです。
李玲玲@朝月希和は、前半、存在を忘れるくらい出番がなくてビックリしました。
さらに、文秀からは妹扱いだし、譚嗣同といい感じの雰囲気になったりもするので、もしや主人公以外の男と結ばれるレアなパターンかと期待してしまいました。
恐らく原作主人公だと思われる李春児@朝美絢。宦官だから宝塚の主役から外されたのかなと思いますが、運命を自分の意志で変えるという作品テーマからすると、この役を主人公に据えたままの方がまとまりが良かったんじゃないかと感じました。
まあでも、彩風咲奈と朝美絢のどちらが兄貴分と弟分かと言われたら、この配役も仕方ないですかね。いかにも弟分という感じの可愛さを振り撒き、さらにフィナーレでも娘役と共に愛嬌いっぱいに踊っていて、朝美絢って研究生何年目だ?と確かめてしまいました(笑)。
順桂@和希そらは、低音の良い声で直ぐ気付けました。
予想以上にしっかり3番手として使われていて、宙組から送り出した気分の身としては、とても嬉しく誇らしかったです。順桂は理知的で、基本眉間に皺が寄っているような役だけれど、時々ふと緩むところに人間味があって彼の人生にドラマを感じさせたし、ソロ含む見せ場もあり、フィナーレの歌手役まで、素晴らしい仕事ぶりでした。宙組だと目立っていた身長の低さも、雪組では問題なく、いい組み替えだったと思います。
ところで、唐突な爆弾のくだりは「エリザベート」のルドルフのオマージュだったのでしょうか?
李鴻章@凪七瑠海は、客席に着いてから主要キャストを確認して出演に気付き、改めてポスターを見たら3番手位置で写っているぞと驚きつつの観劇になりました。
正直、無茶苦茶いい役でした。凪七瑠海は線の細い男役ですが、出演が雪組で且つ中国物だと体格の問題が気にならず、官僚でも軍人でもある大人物として風格を漂わせており、格好良かったです。日清戦争のシーンでは、思わず中国側を応援したくなったくらいです。
さらに専科でありながら、フィナーレの男役群舞に参加していたことにも感謝。思わずずっと凪七を追ってしまいました。長年培った技術なのか、娘役経験の豊富さが物を言っているのか、裾捌きが抜群に美しく眼福でした。
鎮国公載沢@咲城けいが凪七に非常によく似ていると思ったのですが、調べたら新人公演の李鴻章役とわかって納得しました。記者クラブの何でも「イエス!」のやりとりは笑えました。
記者のトーマス・バートン@壮海はるまが、なかなか格好良かったです。
譚嗣同@諏訪さきは、いかにも王道の優しい横恋慕役かと思いきや、最後に「簡単な方を選ぶ」と言いつつ、文秀を残して死に向かう姿は格好良かったです。