ロマサガRS リアム編よりラゼム妄想(教主に収まるまでの過去妄想)

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 まずい。肉を喰んだ瞬間、ラゼムは咥内に広がる嫌な味に顔を顰めた。

 ラゼムがその男ーー神王教団の教主と出逢ったのは、主に遣わされ、この世に降臨した時である。地上に降り立つ際、その塔を選んだことに意味はない。空から一番近い位置にあったため、目についただけだった。
 その結果、頂上で日課の祈りを捧げていた男と出逢った。
 男は一目見てラゼムに熱狂すると、ラゼムが命じるままに彼の世話をし、人の世のことを教えてくれた。男は、ラゼムを己の祈りに応えて顕現した神だと信じ込んだのだ。
 ラゼムは人の世のことを知らないが、人が知らない世界の有様は知っている。この世界に神はいないし、ラゼムは神でなく神獣である。
(ーーだが、確かに俺はお前たちに神を与えてやるだろう)
 この哀れな神なき世界に、支配者となる主を呼び込む。ラゼムが主のために開く道は、この世界の新たな死星となるだろう。

 男の下で数ヶ月過ごした後、ラゼムは使命を果たす糸口を得るため、塔を降りた。どうか自分に代わって教団を導いて欲しいと懇願する男を、救うべき人々と実際に接してみたいと宥めての出立だった。
 それから1年かけてアケ、ピドナ、モウゼス、ロアーヌ、ポドールイ、ランスと見て回る中でラゼムが知ったのは、かつてこの地を訪れた偉人ーー異界の戦士たちの伝説だった。
 異界の戦士と直接関係したことがあると言う老いた者は、命を救われたと彼らを崇め、直接関係していない若い者も、異文明の知識で生活を豊かに一変させた彼らに感謝をしていた。
 だが異界のものが流入すれば、世界は歪むものだ。恐らくラゼムの主がこの世界を感知したのも、異界の戦士たちが時空を歪めた結果だろう。そんなことも知らず、無邪気に戦士たちのことを語り継ぐ人の愚かさをラゼムは嘲笑ったが、同時に、この異界の戦士への信仰に似た感情を利用できることにも気付いた。

 人々の願いの力と生命力を捧げて、異界の戦士を呼び込む扉を開く。
 そうして更に世界を歪ませれば、主が通れるだけの綻びがこの世に生まれるだろう。

 己のすべきことを見つけたラゼムは、ナジュ砂漠に戻った。
 出て行く時には戻る必要もないと思っていた場所だったが、ラゼムには「教えを広める」と言う手段に関する知識が必要で、それをあの男が所有していることがわかっていたからだ。
 男は僅かな教徒と共に、彼の神の帰還を待っていた。
 ラゼムは早速教団の教徒に、異界の戦士たちこそ新たな支配者「神」の使者であると教え込み、祈りを捧げて異界の扉を開かせた。教徒たちは自分達に与えられた奇跡に狂喜した。彼らは布教に熱を入れ始め、神王の塔には300年前のように救済を求める人々が集まるようになった。
 ラゼムはその人々を、塔の上から見下ろしていた。

 しかし敬虔な教徒たちの中に、一人、ラゼムが示した救済の道に異を唱えるものがいた。他ならぬ男である。
 ラゼムこそ神だと盲信する男は、身を捧げるならば、見知らぬ神よりもラゼムの血肉にして欲しいと縋り付いた。
 その瞬間、ラゼムは自分の心底に、愚かで脆い人間を憐れむ気持ちが生まれていたことに気付かされた。
 ラゼムは知っている。主は人を救わない。主の支配する世界に人の生きる場所などない。だが、ラゼムは主のために道を開かねばならない。生命力を捧げて夢の中に落ちた教徒は、己の献身が神の降臨に役立ったと信じたまま終わりの日を迎えられるだろう。神ならぬラゼムが与えられる人の幸福は、この程度のものだと、そう思っていた。しかしーー
 ラゼムは男の希望通り、その腹を喰いちぎってやった。人の肉など美味くもないし、人の擬態のままだと予想以上に顎が疲れて、直ぐに吐き出す。それで、ラゼムは教主だった男が、腹を食い破られた後も恍惚の表情を浮かべたままだったことを知った。

(ーーよかろう、俺が救ってやる)
 ラゼムは誓った。ラゼムは一飯之恩を知る獣である。人間は使命を果たす術を教えてくれた。ならば人間はラゼムが救ってやろう。
 ただし、それは死という形になるであろう。


6月のアップデートで新章が始まる前にラゼムを書いておかないと、私のリアム編は終わらないなと思って、今日一日ラゼムのことを考えて、一気に執筆しました。

ラゼムは、作中ではっきり「性格が悪い」と評されていて、確かに神王教団での悪役ムーブは傲慢だし、意味のない罠を仕掛けるところは愉快犯だし、なにを言いたいのか全然理解できないし、正直よくわからない奴です。
でもなんとなく、人間のことは意外と好きなのかなと感じています。
オルレットのように人を虫ケラだと思っていたら、冗談でも友とは呼べないと思うのですよね。

せめてものお礼です。私自ら、殺して差し上げましょう!
(リアム編12-1-5.教主様)

俺がお前たちを救ってやる。仲間と共に逝け!
(リアム編13-2-4.我が友)

その上でこれらのセリフを見ると、自分の手で殺すことが救いになると信じていたのかもしれない、と考えました。

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イヴェリスのキャラクター説明に下記のくだりがあるので、リーダーのラゼムも「余計なことを考えている」獣なのは間違いなく、スタイル概要の「奴」呼ばわりからも、本心はどうだったのか考察し甲斐がありますね。

神獣にとって神は絶対的なものであり、しもべである獣は余計なことを考えるべきではない。が、それを忠実に守っているのは彼だけである。

一人称がコロコロ変わるのは、教主、星読み、第一の獣といった役割をその瞬間ごとに演じているからだと解釈していますが、素は「俺」がいいなと思っています。
星読みを演じている時のおちゃらけ具合を見ると、ラゼムでコメディも読みたいんですけれど、供給はなさそうだから自分で頑張るしかないかな……。

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