映画(朗読劇)「天地四心伝」より、白波の話

SideM 人間族

DAY1・2のネタバレを含みます。

すべて無駄だった。白波は体を丸め、大地を掻きむしりながら泣いた。
生まれたときから追い続けた背中を振り向かせるため、こちらはすべて投げ捨て惨めな姿を晒したというのに、蒼生はどこまでも正しく善しく、白波を憎んでもくれない。白波の処遇すら竜人族の長に委ねた。まるで白波には裁く価値すらないと言わんばかりだ。
そして紅蓮を追い、白波を置いて行ってしまった。
そうだ。蒼生の周りの人間は誰も彼も蒼生を見ているし、当の蒼生はずっと異母兄を見ていた。そのポジションが空いたと思ったら今度は義理の息子に夢中で、白波のことなど一度も顧みたことがない。あの男ーー水簾は、蒼生の思い描く未来には白波もいるなどと言っていたが、必要とされず、目も掛けられず、ただそこにいる事を許されているだけの人生など、白波は真っ平だった。
泣き続ける白波の横で、竜人族の劉爽が身動ぎもせず立っているのも癪に触った。
白波は、死を与えてくれなかったこの男も憎かった。この男は蒼生の同類だ。竜人族の強大な力を持ち、兄に愛され、配下とも信頼関係にあり、白波が持っていないものを全部持っている。きっと、種族共存の世界などという蒼生の理想に協力するに違いない。そうしたら、蒼生の願った世界がやって来てしまう。そんな世界は見たくないとあれほど言ったのに、誰も白波のいうことを聞いてくれず、それどころかよく見ろと追い立てる。
そうだ、水簾もどうせ奪うなら、両目を奪ってくれれば良かったのだ。そうすれば蒼生の創る理想の世界など見ずに済んだ。
孤独で無力な白波は、もはや顔も覚えていない水簾を呪い、咽び泣いた。


3連続で天地四心伝の記事を投稿するのはどうかと思いつつ、せっかく書いたので供養。

実際はさすがの蒼生も堪えたような表情変化があったから、一瞬でも白波を憎んだろうし、同時に自分では弟を殺したくない気持ちもあっただろうし、まったく情がないとは思いません。でも白波からしたら、生殺与奪権が劉爽に渡された時点で、「蒼生は最後まで自分とは向き合ってくれない」と思ったでしょう。

白波がただ恨み言を言ってるだけだと話に起伏がないので、途中で劉爽から声をかけさせようかと思いました。しかし、いくら彼が優しい男でも、白波に優しくしてやる義理はないので止めておきました。千紫万紅の乱を見ると、劉爽が白波を許すのも断腸の思いだっただろうと思いましたよ。

ちなみに、このSSの一部は、丹碧の乱視聴時点で書き出しました。その時は「どんなに頑張っても手が届かない」というセリフを受けて、もう少し白波を哀しい存在として書いていたのですが、千紫万紅の乱を見たら真っ当な努力をしていなかったので、誰かに責任転嫁し続ける駄々っ子として全体的に子供っぽく描写する方向に変わりました。

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