唐突な、将軍inサガスカ話。

銃の衝撃

将軍がサガスカ世界で指揮をとることになったら、連携も独壇場もない世界で、連撃に対応しないといけなくて最初は苦労するかも、なんて考えていたら、もう一つ、サガエメとサガスカの違いに気付いて、1日で話ができあがりました。


 敵の怒りが自分に向けられたことに、サビットの背筋が震えた。狙った通りであるし、仲間を守るため必要なことだと分かっていても、根からの武人でない彼には毎度耐え難い恐怖である。
 そのまま守りを固めるつもりで腰を落としたところに、背後から攻撃指示が発せられ、サビットは思わず指揮官を振り返った。
「将軍、ここは防御しないと耐えられないぜ」
 もちろん彼の指揮官は、それを重々承知していた。
「安心しろ、お前の死によって連撃が発動し、我が軍は勝利する!」
「ひ、非人道的な作戦はよくないぜ!」
 止めてくれる者はいないのか、と仲間たちに視線を向けたが、ユラニウスの姫君があなたの軍じゃないわよ、と将軍に斜め方向の文句をつけているだけで、誰もサビットの命運は気にしてくれていなかった。敵も、待っていてはくれない。
「くそ、やってやるよー」
 サビットは覚悟を決めると槌を大きく振りかぶり、無防備な体で前に踊り出た。

◇ ◇ ◇

「さっきはよく俺様の言うとおりにしたな。褒美だ」
「……これ、野いちごじゃん」
 戦闘後、倒れているところを助け起こされたサビットは、将軍の小さな手に乗る赤い果実を見て少し項垂れた。LP回復してまた死ね、という言外のメッセージを感じたからである。
 だが、直ぐに気を取り直すことにした。
「まぁいいか。将軍もお疲れさま。それに、お前さんの言うことを守れば勝てるってのは、嫌ってほど実感してるからなぁ」
 見聞を広げるため世界を回っているユラニウス家の姫君の一行に、不遜にも「将軍」を名乗る迷子が加わったのは、数日前のことだ。最初の内は、剣将軍家に戦術を説くとは無礼千万と相手にされていなかったが、姫君の守役が一度彼の助言も尤もと戦闘を任せてみたことを切っ掛けに、以降は誰も将軍が戦闘の采配を取ることに文句を言わなくなった。四将軍家とは関係なくとも、彼が間違いなく「本物」だったからだ。戦いについては素人同然だったサビットが、ユラニウス家の家臣団に代わって一翼を任されるようになったのも、将軍の作戦に真面目に従う性格により、他の者より戦果を上げるようになったためだった。ーーサビットは決して、戦場に出たいとは思っていなかったから、それがよい評価だとは言えなかったが。
 戦闘での評価は欲しくないと思ったサビットの気持ちを読んだように、将軍は話を変えた。
「俺様も、お前のお陰で弓兵に上手く対応できるようになった。礼を言う」
 こちらの礼は、素直にサビットを喜ばせた。
 弓の基本構造と技から、過去の戦争でどのような活躍をしたまで、思いつくままに語ったのは昨日のことだ。今日の戦闘では、敵の弓兵は実力を発揮できないように翻弄されていたし、味方の弓兵はいつも以上の実力を発揮しているように見えた。あれがサビットの協力によるものだと言うなら、それは鼻が高くもなる。
「そうか! 役に立ったならよかったぜ」
 サビットは武器マニアだ。武器の話となると、知っていることはなんでも語って、その武器の素晴らしさ、面白さを皆に伝えたくなる。必然的に、話は長く、仰々しくなるので、大抵の者に不評を喰らう。だが将軍は、サビットが激情に任せてどれだけ話してもちゃんと聞いてくれる稀有な人物だった。時折面倒そうな顔はするが、しっかり聞いていることは、合間に返される質問の鋭さから明らかだ。
「しかし弓がない世界があるなんて、信じられないなぁ。術士以外は、みんな剣や槍で近付いて戦ってたのか?」
 そう。将軍が弓に関するサビットの蘊蓄を聞いたことの背景には、別の世界から来たという彼は弓を知らなかったという事情があった。
 なお、別の世界から来たという将軍の申告を、同行者の何人かは冗談だと思っているようだったが、サビットは疑いようもないと思っている。将軍は確かに戦いに関しては有能な指揮官だ。その指揮官が、これほど洗練された武器を知らないなんて、異世界から来たという理由がなければ信じられない話ではないか。
 将軍の回答には、少し間が開いた。
「いやーー俺様の世界には銃という武器があった」
 聞き覚えのない単語に、サビットは将軍を見やった。
「弓とは違う原理で飛ぶ武器ってことか?」
 見知らぬ武器の情報に、思わず熱が帯びる。
「そうだ。弓は人の手で弦を引き、矢を山なりに飛ばすが、銃は火薬を使って真っ直ぐに飛ばす。その速さは、矢の何倍も早い」
「ええっ、矢だって達人が撃てば真っ直ぐ飛んで時速200km出るんだぜ? 矢は鎧の隙間を狙うのが基本だが、薄い鉄なら突き刺さって穴を開けることもあるからな」
「その通りだな。だが銃は発射した瞬間と同時に着弾しているし、プレイトメイルでも貫通する」
「ううん、そんな武器があったら、確かに弓は生まれないかも知れないなぁ」
「だが、射程は弓より遥かに狭い。それに銃は、基本の扱いが難しいと言う欠点があるな」
 将軍の言葉を信じるならば、銃と弓のどちらにも、それぞれ利点があると言うことになるが、それならばますます両者を比べてみたいところである。
 まずは姿形を想像してみるも、さっぱり検討がつかず、サビットは降参した。
「実物を見てみたいなぁ。将軍、持ってないのかい?」
「持っていない」
 予想通りの回答だったが、だが、と将軍は思わぬ言葉を繋げた。
「銃の構造は、俺様の頭の中にあるぞ」
 ーー構造がわかるということは、おおよその図面を引き、銃を作り出すことができるということだ。火薬を使う武器ならば、おそらく素材は鉄だろう。素人が製鉄することはできないが、協力してくれる職人がいるならば、再現は可能そうである。
 真っ直ぐに飛ぶということは、魔法以外の力で、下から上に向かって攻撃することが可能になるということだ。それも詠唱の必要なく、弓より速く、そんな恐ろしい武器がこの世にあったら、一体どんなことが起きる? 盾将軍家の盾は、その時役に立つのか?
「サビット、お前、腕が良くて口の固い鍛冶屋に心当たりはあるか」
 将軍の目が赤く煌めいたのを見て、サビットの背筋は先程の戦闘時より大きく震えた。


ヴァッハ神がサガエメにもいるのだから、サガスカが連節世界のどこかにあってもおかしくはないし、戦士団が事故でバラバラの州に転移しちゃってもおかしくはないよね、という強引な妄想でした。
将軍ってばワルだなー、と自分で書いて思いました(笑)。
でも将軍は、悪意から銃の存在を仄めかしたのでなく、この世界で誰も持っていない銃を揃えたら、効率よく戦いに勝利できると思っただけだと思います。
サビットくんの方は、危険な武器だと思いつつ、好奇心が抑えきれず銃開発に協力すると思います。母親に対して功績を認めてほしいという気持ちもあるかも。将軍もその辺ちゃんと見抜いて話を持ち掛けてます。
サガスカ世界に銃が生まれたら、どう世界に影響を及ぼすでしょうね。案外、もっと危険な存在がいっぱいいるから、なんともならなかったりして。

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