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 耳元に口を寄せ、餓えた心の亀裂を広げる毒を流す。
「仇を取る機会、逃すなよ」
 今や兄は大空を飛ぶ黄金の隼に魅せられるあまり、足元の危険に気付いていない。もし断崖から落ちたとしても、天を仰いだままでは、突き落とした相手を認識しないだろう。
 ――隼を打ち落とす必要があった。
 耳打ちした相手は、昏い視線でリュシアンを一瞥すると、慇懃に応えた。
「……言われるまでもないことです」
 男がその上着の内に隠し持つ狙撃銃は、隼狩りだけを目的に磨き続けたものである。標的を見付ければ、必ず仕留めるだろう。
 だが、飼い主――兄が暗殺を指示しないことを、リュシアンは知っていた。
 忠犬か、狂犬か、男が試される時が来る。
 その時リュシアンも、兄の弟か、一人の男か、世に試されるだろう。


宙組公演「トラファルガー」東京追加演出シーン、「オーレリーに耳打ちするリュシアン」より。

10場だけの印象で語ると、「ネルソンが負傷」と知って和平を申し出るナポレオンは、純粋にネルソン不在の英国と戦う意義を感じなかっただけで、それが罠になったのは結果論なのでは、と感じます。
そのあと悪役風の演出があるので、全体の印象は悩まされますが……
少なくとも、オーレリーに暗殺は命じる気は全くなかったように見えます。

リュシアンは、兄がネルソンに気を取られていた方が簒奪し易いと分かっているけれど、それでは意味がないと思っている。
野心家だけど、ブラザーコンプレックス。そんな勝手なイメージです。

宙組公演「トラファルガー/ファンキーサンシャイン」11:30(セゾン・UCカード貸切)観劇。
東京初日から10日経って、やっとMy初日です。

1階SS席。
ショーで蘭寿とむ氏の目線が飛んで来たような気がしますが、そういう錯覚をしても奇怪しくない近さ。この席の問題は、センター以外のお芝居を観てると罪悪感があることですね(笑)。

まずミュージカル「トラファルガー」。
芝居の変更点は、既に多数のファンブログで報告されている通りでした。
宝塚での初日は継ぎ接ぎ感が強かったけれど、全体にアップテンポな展開はそのまま、各エピソードの繋がりが出て来たように感じます。
ジョサイアを庇うシーンなどは、凄く戦場の動きが分かり易くなったと思います。

不評も聞く「ぬくもり」と言う歌詞ですが、私はあまり違和感なく受け止めています。
主人公とヒロインの恋の歌にしては即物的過ぎるように感じられるのかと思いますが、少なくとも最初のシーンの「ぬくもり」は、握った手だけを言ってるのだと思います。
エマを5000ポンドで買い取った芸術品として愛でていたウィリアムは、エマに触れることはなかった。だから、ネルソンに儀礼と関係なく両手を取られたとき、凄く久し振りに人と触れて、その暖かさを思い出したのだと思います。大空祐飛は体温の低そうな役者なので、恐らくとても微かな温かさだけれど、それに吃驚するくらいエマは飢えていたんじゃないでしょうか。
史実とは関係なく、舞台のエマからはそんな印象を受けました。
しかし二回目の観劇なのに、「ネルソンとエマが好き合うの早過ぎない?」と思ったのは事実です。

先日「皇后ジョゼフィーヌのおいしい人生」を読んだので、フランスチームに注目しましたが、妹たちやジョゼッピーナに対して、表面上にっこり微笑みつつ、凄い怖い顔してるジョセフィーヌに大ウケしました。ナポレオン一家、怖過ぎます。

最期のシーン、ネルソンを包むユニオンジャックは、思った通り1階からの視点ではまったく分かりませんでした。しかし、同じ演出が、1階からはまるで波の中に消えていくように視えました。
席を変えて二度観ないと気付かないかも知れないけれど、二つのイメージを両立させる、心憎い演出だったんですね。

以下、前回観劇から印象が変わった役をちょっとだけ。
エマ@野々すみ花が痩せて、綺麗になってきていました。
「一目見たら忘れられないほどの美女」と言われるとやはり疑問符がつきますが、一層磨かれて綺麗になる事を期待します。
ヘンリー殿下@十輝いりす、初見はこれといった印象がなかったのですが、近くで拝見すると大変麗しい殿下でした。鷹揚な人柄が高貴な雰囲気に繋がっているのかな。
ネルソン父@風莉じんの「ホレイショが帰って来る」でまた泣かされました。それ以前の演技も、鬱陶しさが薄めになっていた感じです。

ショー「ファンキーサンシャイン」。
構成が分かって見ているので、初見のような戸惑いはなく、ちょっと緩い独自のノリを楽しめました。思った通り、リピートした方が楽しい作品ですね。
太陽族や、戦士のシーンは小芝居や個々人のチェックが楽しいです。今回観劇予定数があまり多くないので、どこまで観られるか、不安ですが頑張ります。
プラズマでも、男役は認識できました。動きがとても綺麗だなと思ったら、珠洲春希でした。鳳樹いちもこのメンバーに含まれていて、ダンサーなんだ、と知りました。
太陽の戦士は、銃撃戦になった瞬間、蘭寿とむが二人にマイクなしで「逃げろ」と言っているのが確認できました。先程まで奪い合っていたのに、どういう心境の変化なのか、次回はその辺を確認したいです。
第7場Aの若手4組のシーンは、蓮水ゆうやが先輩スターとしての経験値の差か、一番オーラがあるように感じました。

宝塚大劇場公演「トラファルガー/ファンキーサンシャイン」初日を観劇。
良い意味でも、悪い意味でも、演出家の癖が出ていると感じた2作品でした。
長文になり過ぎたので、先に1幕の芝居「トラファルガー」から投稿します。

2回目の大劇場で、初めての2階席でした。大劇場は2階最前列でも観易いと聞いていましたが、やはり身長が低いためか、手すりがちょっと邪魔で視界を塞がれる感じ。
でも、1階で観ていたらエンディングの演出意図(英国旗)が掴めなかったかも知れないので、今回は全体を観ると言う観点からも、この席で良かったかなと思っています。

全体に凄く展開が早くて、当然セリフも早回しで、更に舞台から捌ける時ももの凄い駆け足で、息をつく間がないジェットコースター状態。
歴史上の人物を扱った話ですが、エピソードを借りているだけで、7割はフィクションの味付けがされているのに、それでも、荒唐無稽さより歴史物っぽさを感じたのが不思議でした。
この公演が始まるまで同じ劇場で、フランス革命後のパリの混乱を描いた作品「スカーレットピンパーネル」が上演されていたので、観る側が勝手に歴史のお勉強をしている気持ちになってるのかな。
あと、過去の宝塚作品ネタを色々仕込んでる遊び心を感じました。でもネルソンの最期のシーンにまでネタを仕込まれると、泣くべきか笑うべきか困るのですが……。

まだ幕が開けて間もないので、あまり詳細は語らないようにしますが、個人的に気に入ったのは、オープニング、2組の夫婦のレストラン、トラファルガー海戦の3シーンです。
オープニングは、幕が開く予告もなく、不穏な音楽(斎藤先生演出らしく当然のようにゲーム音楽っぽい/笑)とともに上手から銀橋に現れるナポレオン・ボナパルト。そのトゥーロンの戦いで勝利するも思い掛けない攻撃を受けたナポレオンは、部下に艦長の名を尋ね、ホレイショ・ネルソンの名を知る――。
と言う「運命の出会い」の後、ようやく開幕アナウンスが入って、映画のコマ割りを意識した映像プロローグに突入。映像だけでこんなに長い尺を使うは初めての試みではないでしょうか。
そして、幕が開くとプロローグとして、波間から英国兵、仏国兵勢揃いのナンバーが開始。
この「VICTORY」と言う曲が寺嶋民哉氏の作曲でしたが、予想以上に大空氏の声に合っていて、テンションも盛り上がるものでした。
何より、揃いの軍服がズラッと並ぶ姿は正に眼福。フランス物の演目は多いから衣装部にストックがありそうですが、英国海軍制服はこの公演用に誂えたのでしょうか?
下手に明るい色を使わないことで絵面が重厚になっていて、私の好みと一致して嬉しかったです。

セットはかなり簡素。セットを組まずに映像で室内を作ったりと言う部分は、予算削減なのでしょうか。
奥行きが薄っぺらくなるので、出来るだけセットを組んで欲しいんですが……

あとは細かい事を思い付いた順で箇条書き。

  • 最初の凱旋シーンで、英国国民が少ないなぁと思いました。東京では初舞台生が増員されるのかな、と思ったら次の大劇場まで宙組初舞台生はお休みなんですね。
  • 伝令旗をそのまま出してしまう斎藤先生の「オタク魂」に感動。
  • ネルソンとエマのデュエットの歌詞が少し単純過ぎて苦笑しました。しかも歌う回数が多いので、あっという間に覚える。
  • 英国海軍なのに「ラジャー」なのは引っ掛かりましたが、実は「アイアイサー」より好きなので個人的にはOKでした。
  • マイクの調子が悪かったのか、エマが喋る度にガサガサ音があって落ち着きませんでした。

既に長文ですが、以下は更に長々とキャストの話です。

ネルソン@大空祐飛
男気のある固い軍人と言う感じで、ビジュアルを堪能するだけでなく、一人の人物として格好よく見える辺りが嬉しかったです。
しかし、女性の扱いが下手な感じがこれまでの主演作と随分違う印象。
斎藤先生の過去の演出作を観ると、マザコン気味と言うか、母性愛に飢えた男性像が好きなんだろうなぁと思います。ネルソンは母親の話は一切出て来ないけれど、エマを愛する切っ掛けは「ぬくもり」であると言う点が、母性っぽいかなと。
(公演関係ないけれど、斎藤先生がTOSを遊んだらゼロスルート選択だと思います)

エマ@野々すみ花
初登場シーンで驚く程「可愛い!」と思わせてくれました。
年相応に溌剌としたお侠な感じで、これまた新しい野々のキャラではないでしょうか。
正直に言えば、そのへんは愛嬌であって、「5000ポンドで買われたミューズ!」と言える美貌でなく、ちょっと設定と乖離していますが。
史実のエマは、ネルソンが戦地に行くのを激励するような女性だったようで、その辺は少し変えられていますが、御陰で史実よりも観客に受け入れられ易くなってるかも知れません。

ナポレオン@蘭寿とむ
黒髪は前回シャングリラと同様ですが、よりスマートで格好良かったです。
ただ「ナポレオン・ボナパルトです」と名乗るかのような数々の衣装(軍服中心のネルソンより種類豊富)に、ちょっと苦戦してる気がしましたが、コスプレ物は苦手? 皇帝衣装はちょっとマントに埋もれて見えました。
出番は大量にあるけれど、主軸の話と別にいるのは否めないですね。そもそも、トップと二番手が直接絡むことがないのは残念でならず。嘘設定で良いから直接言葉を交わすシーンが欲しかったです。しかし、流石の存在感でした。
毎公演日数を重ねるごとに熱くなる人だと思っているので、恐らく後半日程からが面白くなるのではないでしょうか。

ハミルトン卿@北翔海莉
また髭の役か、と思っていたのですが凄い濃い役でした。主人公の恋敵として十分に渡り合う、格好良い色男のオジ様でした。
台詞はすべて寛大だけれど、エマに対して最初から所有物扱いの姿勢で、根はかなり陰険で冷酷な悪役。でもあんな賭けを持ち掛けた真意、そしてエマに結果を告げる時のあの揺れる想いなど、唸らされる演技力でした。
公式の解説のようにネルソンの戦地派遣に関与することは全くありませんでしたが、軍人じゃないのだから当然で、むしろその辺は安心しました。

ハーディ@悠未ひろ
初めて観る、悪役じゃない悠未ひろでした。ダンスが下手、嘘も下手、実直な性格でたぶん愛妻家と言う、好青年。ナポリでの舞踏会など、小芝居が楽し過ぎて真ん中を観つつもハーディに釘付けでした。
正直、「キス・ミー・ハーディ」がなかったのは残念です。ベルばらネタを仕込むより、そちらを使って欲しかったです。
しかし、英国軍人はほぼ全員が金髪長髪に海軍軍服を着ているせいで、遠目に見ると誰が誰だか判別し難いですね。その点、初心者さんを誘い難い演目かも知れません。

ファニー@花影アリス
気位の高い嫌な女! 好演でした。レストランシーンは、台詞も動作も多くないのにゾクゾクするくらい彼女の意識が昂っているのが感じられて、下手に直接罵倒し合ったりするよりも凄い修羅場になっていました。あそこから逃げ出すネルソンの気持ちがよく分かります(笑)。組み合わせ的に大江山花伝の四人と同じなのに、全然違う雰囲気なのは面白い。
最後は歩み寄りを見せるので、嫌な印象のままでないのは安心。
ずっと感じていた線の細さは、衣装でだいぶカバーされているように思いました。美人過ぎて、ジョサイアの母親に見えないのはご愛嬌。
こんな怖くて格好よくて強くて哀しい人間を演じる技量があったのだなぁと、退団の今になって知った感です。

リュシアン@春風弥里
とにかく格好良い!
ナポレオンと大体セットで登場するため、出番も多いし、センターソロがあるなど、88期男役メンバーで一番美味しい役だと思いました。
なにより「無駄のないデキる青年」なのが素敵です。サッシャ@カサブランカも良かったけれど、こういう隙のない役もしっかり演じられる辺り、凄い安定感だと感じ入ります。

オーレリー@蓮水ゆうや
公式人物相関図が出た時から、この役の担う役割は想像できていましたが、まったく予想通りの役でした。
唯一予想外だったのは、こんなにも狂気を宿す役だったと言う事。
遠目にも、狂気に片足、否、両足を突っ込んでいるのが感じられました。次回は、是非オペラグラスを使って眼を観察したいと思います。

トム・アレン@凪七瑠海
こういう持ち味の役者なんだ!とよく分かりました。生き生きとしていて、楽しそう。可愛いなぁと好感を抱かされました。
もう少し重要な役にも出来た気はするけれど、一服の清涼剤って感じでしょうか。英国メンバーの中では見た目も異なって目立つのは美味しいと思いました。

ジョサイア@愛月ひかる
ネルソンに対して心を閉ざしてる雰囲気が感じられました。和解展開はフィクションだけれど、物語としてはこれで大正解ですね。エピソードを巧く繋ぎ変えているなぁ。爆発するジョサイアの感情に技術が追い付いてない気もするので、成長した後半日程が楽しみ。
英国チームには珍しいやや黒髪で、埋没しなかったのも良かったと思います。

ジュゼッピーナ@純矢ちとせ
私はこれまで、彼女は声質はとても良いけれど、歌自体はあんまり得意じゃないのだと思っていましたが、今回は凄く巧くて感嘆しました。オペレッタ風に歌い上げる方が得意なんでしょうか。
美人で華やかなので、今後更に巧く使われることに期待です。

その他、ポーリーヌ@大海亜呼とカロリーヌ@愛花ちさきは、真に迫った嫌味な妹たち。ジョセフィーヌ@五峰亜季も含めて折角のダンサーズなのに、踊りがなかったのは残念でした。
ネルソン父@風莉じんが、痴呆気味で鬱陶しく感じていたら、最後の展開で目頭が熱くなりました。彼が口ずさんだのは「ルール・ブリタニア」かなと思いましたが、その辺も嬉しかったです。
アルバート@鳳翔大と、ジュリアン@七海ひろきは、前述の通り見た目に差がなくてちょっと勿体ない感じ。カードのシーンで、ハミルトン卿に質問されて挙動不審になるのが二人とも可愛かったです。
シェイエス@天玲美音は花組の朝夏に似た顔立ちともの凄い目力で、絶対気が付きますね。バラス@鳳樹いちの楕円の気味の顔も分かり易い。バラスの方には、大物政治家っぽさがより出ると良いなと思いました。
ところで、蒼羽りくが見当たりませんでした……。星吹彩翔はある程度分かったのになぁ。

明日は宙組「トラファルガー/ファンキーサンシャイン」宝塚大劇場公演初日遠征です。
今更ながら公式の解説を再読し、史実のハミルトン卿はエマとの不倫があってもネルソンに好意的だったのに、敢えて敵対する構図に変えたのは、もしかしてネルソンのナポリ時代の失策をハミルトン卿の指示によるもの、などとしてネルソンの非を減らす作戦でないかと思い付きましたが、さて答え合わせはどうなる事でしょうか。

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過去にも描いているのですが、公開は初の蘭寿とむ氏でナポレオン・ボナパルト。

遊びでブログパーツ風トラファルガーPV(非公式)のコンテを描いた後、少し本気で制作してみようかなと思って、動画材料にするイラストを描きました。
どうやら、現在のところ文字熱は満たされているようで、お絵描きの熱の方が高いです。

資料がポスターしかないので、そちらを参考にしてます。重なっていて良く分からないところはそのまんま。
絵として載せるにあたって、年代物っぽく加工処理してみました。

今回、過去最高の真剣さで蘭寿氏を描いてみて、大空氏が漫画系の顔なのに対して、劇画チックな顔をされているんだと感じました。もっと言えば、歌舞伎顔?
だから、シャングリラの絵柄で嵐を描くのは失敗したのですかね。
似てるかどうかは別として、結構お気に入りの一枚です。

本当に「トラファルガー」が楽しみでならず、やはり5月に遠征しようかなぁ、と唸っている今日この頃です。