• タグ 『 ヴァレンチノ 』 の記事

宝塚宙組シアタードラマシティ公演「ヴァレンチノ」初日を観劇。

冒頭から総括的な話をさせて頂くと、この作品が、1986年初公演であり、且つ小池修一郎氏の演出家デビュー作品であると言うことが、一番凄いところだなと思います。
確かに若書きの感はあって、ナターシャとの関係などはもっと掘り下げて欲しいとか、一幕の幕切れはもう少し盛り上げが欲しいと思いましたが、ユーモアと希望と哀しさとが入り交じった良い作品ですね。また、冒頭の無声映画的な演出に、映像を組み込んだ近年の演出への繋がりを考えたりして、今回は演出家と作品を強く意識した観劇になりました。
再演物となると、当時は新鮮さがあった曲や演出でも、今の時代にはそぐわないと言うことが多いですし、実際観ていても「栄光と挫折の物語」に強い既視感があって、同じような構成の「THE LAST PARTY」や「HOLLYWOOD LOVER」の方が今風で良く纏まってると思うポイントもあります。しかしラストシーンでの清涼感など小池演出ならではの大衆性があり、程よく軽く、程よく高尚で、初見でも分かるし、二度目だといろんなシーンが重なったり繋がって見える楽しさがある、練られた作品だと思います。
厳しい事を言わないといけないのは、演者の方かな。
公演後、カーテンコールでスタンディングオベーションが発生したのですが、正直、演じる側はまだ100%でない。もっと伸びる部分があると思いました。普段起立しない麻生も今回は立ちましたが、それはあくまで作品への賞賛としてでした。
とは言え、主演挨拶でも「立ち止まる事なく進歩する」と語っていましたし、キャストの役付きは見事に嵌まっているので、徐々に深まって濃くなり、作品の良さ以外の点でももっと魅せてくれることでしょう。
東京で観る日が、今から待ち遠しいです。

まず、公演に先駆けて購入したプログラムに触れておきたいのですが、掲載される写真が、通常下級生は全公演使い回しなのに、全員扮装写真だったのは思いがけず嬉しいポイントでした。
開始直後、アナウンスで「ヴァレンチノ」のイントネーションに驚きました。「ノ」で下がるのだと思っていたら、平坦に読むんですね。

以下、キャストの話。まずは通し役がついてる人から。

ヴァレンチノ@大空祐飛は、ポスターのイメージで今回も苦み走った渋い役かと思っていたら、凄い「若造」で驚きました。久し振りにキュートな母性本能をくすぐる役で新鮮です。片言+訛りの破壊力に何度もニヤついてしまいました。
シーンごとに「アランチャ」の歌のイメージが変わるのが「THE LAST PARTY」の名曲「Life」のイメージとも被り、ゴミ溜めの中での「アランチャ」には目頭が熱くなりました。
いえ、プロローグで夢を語るヴァレンチノの姿で、なぜか早くも目頭が熱くなっていたのですが。
一幕ラスト「血と砂」の踊りには歌が欲しかったですね。タンゴ等は決して巧くなくても魅せる形でキメていて良かったのですが、ソロの踊りだけで諸々を表現しないといけないあのシーンは、マント捌きなどもあって苦戦していた様子。回数をこなせば良くなることを期待します。
挨拶の時に、いつになく緊張した様子だったのは、役が抜けてなかったのでしょうか。

ジューン@野々すみ花は、演技に背伸びした感じがなく自然体で素敵でした。
豊富な人生経験があり、真面目だけれどチャーミングな面も持ち合わせ、周囲から一目置かれるシナリオライターと言う、あらゆる意味で目標にしたい女性でした。

今公演の目玉、男役の演じる女役ナターシャ@七海ひろき。予想外に美しかった! この配役が吉と出るか凶と出るか不安でしたが、大満足です。
敢えて低く出した声が、妖しいお姉様の雰囲気を出していて格好よかったです。
二幕の出番が思ったより少なくて、占いの骨はもっと重要な小物かと思ったら台詞だけであっさりルディと破局するので、少し物足りなさを感じましたが、役の比重で言ったら二番手並で、良く応えていると思います。
しかし「ムッシュ・ボーケール」は果たして芸術なんでしょうか……。一瞬「雨に唄えば」が始まったのかと思いました。

コメディリリーフ的なジョージ@春風弥里は、何の心配もなく観ていられるキャストの一人。優しさが滲み出て来る好演でした。主役と対等で、むしろ彼の支えになっていると言うことが納得できるキャラでした。
彼は実際に随筆を書いたのでしょうか。もし存在するなら、読んでみたいです。
ちなみに「アリスと結婚した」と言う意の台詞があるのですが、役ではなく春風の同期(OG)花影アリスの姿が思わず浮かんでウケました。

贅沢な使い方をされていて、少し申し訳ないのはデ・ソウル@悠未ひろですね。
出番が大変ピンポイントで、且つ他の役を演じていないので、舞台上の出演時間は相当短いと思います。ただ、1幕のあの短い出番で印象づけて、2幕にあの役回りをすると言う任務を確実に果たせる役者となると、余人に代え難く、そしてそのインパクトを出す為には出番を抑制するしかないと言うのも分かります。
ただ、コメディの線で行くのか怖い線で行くのか、どちらかに固定した方が良いのでは?と思いました。
例のダンスには色々な意味で仰け反りました。小池先生は男役同士のリフトが好きなのかしら。迫力があって麻生も好きですけれどね。

娘役に色々役があって良いなと思いましたが、一番美味しいのはナジモヴァ@純矢ちとせでしょう。大女優と言う事で嫌味な感じかと思いきや、パスタのシーンでは可愛い気遣いを見せて笑いも取っていました。
亡命者としての悔しさやプライドが、享楽的な生き方をさせるのかな、と背景を考えさせられました。

その他のキャストで、印象的だったのは第一に美風舞良です。
ピンクパウダーパフの場面は、演出を疑ったけれど、多分ハプニングを誤摩化す為のアドリブだったんですよね? 初日なのに流石の舞台度胸で、安心してお任せできるなぁと思いました。
それから、ダンサーである蒼羽りくの「駄目ダンサー」演技が面白かったです。蚊帳の外になっても監督にアピールを続ける姿が可愛かったです。
鳳樹いちは、実力からして司会のジョニー・マンデル役をもっと面白く出来ると思うので、今後に期待です。

なお、今回のフィナーレは途切れることなく踊り続ける形式。珍しいと思います。
構成自体はとても格好よかったのですが、最後に総踊りしてそのままお辞儀して終わってしまうので、個別に拍手を送れないのが少し残念です。