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大空祐飛さよなら特集3日目。

7作目、梅田シアタードラマシティ&日本青年館公演「ヴァレンチノ」。
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本日千秋楽を迎えた中日劇場公演ショー「Apasionado!! II」には、ルドルフ・ヴァレンチノをモチーフにした「熱視線」というワンシーンがあります。
そのことから、今回はミュージカル「ヴァレンチノ」に思いを飛ばすことにします。

震災による唐突な公演中止。そして、半年後の復活公演。
まるで舞台上で展開されるルディの死と再生のエンディングを思わせる、「奇跡」に彩られた舞台でした。

……なのに、描いたのがこのシーン(苦笑)。

10年前の男

DVD感想でも触れましたが、初日に反応に困ったシーンです。そして、描いてからアップする段階でも大いに躊躇させられました。

ところで、マフィアと言っても使い走りにされる街のチンピラ程度だった若造時代から、暗黒街のボスに上り詰めたデソウルが、当時の情婦を奪った男をそこまで恨んでいるものでしょうか?
ビアンカは既に彼の傍にいないようですから、もう終わった話のはず。
そして2人が顔を合わせたのは、10年前のほんの数分。普通なら、もう風化した記憶でしょう。ましてや、人の顔は年月で変わる物です。
実のところ、デソウルはこの10年、ルディのことなど意識していなかったと思います。
前日にクラブ21でテックスが気付き、デソウルも「ルドルフ・ヴァレンチノが来ていた」と知ったのでしょう。それで改めてルディの記事でも見た時に、ふと既視感があった。
……実のところ恨みなんてまったくないような、そのくらい偶然の接触がルディの人生を最後に谷に突き落としたのかもしれない。段々そう思えて来ました。

「ヴァレンチノ」DVD感想の最終回です。
リミットにしていた宙組東京公演までは約1ヶ月。そろそろ生舞台が観たい症候群が出て来ました。

【2幕10場 ジューンの幻想】
帰宅したジューンは、ラジオでルディが緊急入院したことを知る。病院へ行こうと立ち上がったところに一本の電話が鳴り響き、知らせを受けたジューンは声もなく立ち尽くす。

電話の音を聞いて立ち止まるジューンは、まるで人形のようにギクシャクとした動きで、まるで「その電話を取ってはいけない」と知っているように思います。いや、作家である彼女なら、このタイミングで掛かってくる自分宛の電話に悪い予感を刺激されても奇怪しくはないですよね。
茫然とタイプライターの前に座り指を動かそうとした彼女は、けれど結局言葉を紡ぐことができなかった。この時、ルディの死によって脚本家ジューンの心も死んだのかも知れません。

8場でルディが告白した通り、彼は「現実の恋人としては失格」でしたね。だって、生きて結ばれることができなかったのだから。
幻のルディたちと共に去っていくジューンが、涙に濡れた顔だけれど微かに微笑んでいたことが救いです。

【2幕11場 再生〜ジューンのバンガロー】
ルディの葬儀から1年後、ジューンも急死。ジョージは遺品のタイプライターで2人の回想録を書くことにする。
幻想の中、オレンジの枝を手折った移民の青年が、飛び出してきた女性にオレンジを手渡す──

家具に白い布が掛けられたバンガローをゆっくりと見渡すジョージの背から、懐かしむような、慈しむような想いが滲み出ています。
きっと友人として招かれたこともあるだろう見知った家が、こんな風に閑散としてしまったことで、改めて喪失感を感じているのでしょう。

ルディとジューンの幸せな出逢いを、私は幻想だと解釈しました。プログラムの言葉から考えるに、演出家も「天国の光景」と思って創作したようです。一緒に観劇した友人は、ジョージの回想録で描かれる2人の出逢いだと思ったそうです。
どう解釈するにせよ、最後に笑顔で終わって幸せです。

【アンコール】
此処からフィナーレに突入。なお、実際の舞台では、ここでかなり長い暗転があったのですが、DVDでは短縮されています。直ぐ幕が開き直すのは嬉しいけれど、もう少し余韻があっても良いと思うのは贅沢でしょうか。
「アストロリコ」演奏の痺れるタンゴに乗って、まずは悠未ひろをセンターとした男役群舞。
前場に出ていた春風が、衣装をシャツ含む上から下まで着替えた上で口紅をショー仕様の色に塗り直している早業に驚きます。
東京公演では男役群舞の星吹彩翔が良いポジションにいて目に留まったのですが、DVDを観てあれは天羽珠紀の代役だったのだと気付きました! 天羽も好きですが、芝居と歌の人と言う印象が強いので、星吹の入ったバージョンも観られて良かったです。
途中から娘役の群舞に代わり、ここでセンターを務めるのは七海ひろき。上半身は文句なしに美しいのですが、さすがに男役がロングドレスで踊るのは難そうですね。同時に、この激しい振りを美しい裾捌きで対処する娘役たちは、さすがに「娘役」だと感心しました。
主演コンビが登場後、4組のデュエットダンスになるメンバー構成にさり気なく寿つかさが入っているのが嬉しいです。
また、ラストのポージングで、蒼羽りくが抱きかかえた娘役に非常に優しい顔で笑いかけている姿が映り込んでいて、思わずトキメキました。

最後に挨拶まで含まれて、DVD本編は終了。
収録日は、東京公演中止発表があった3月17日だったのですね。 東京公演が実現して、本当に良かったと改めてあの日の感動を思い出しました。

さて、ショー「Apasionado!!II」には、奇しくもヴァレンチノをモチーフにしたシーン「熱視線」があります。来年2月の再演での「熱視線」は、この公演を経てどんな風に変わるのか、そんなところも楽しみです。

【2幕8場 パーティー会場】
試写会は成功。怪我をおして壇上に上がったルディは会衆に“ルドルフ・ヴァレンチノ”がジューンの創作した人物であることと、彼女への想いを告白する。ジューンもまた、どの役よりもルディ自身が好きだと応え、2人は祝福される。

まず、口々に試写の感想を語る客たちが登場しますが、星吹彩翔が言う「クラブ21でマフィアとやり合って」云々の台詞、DVDだと、彼が数分前は悪い笑顔を浮かべてリンチに加わっていた姿を観ているので、別の役と分かっていても笑ってしまいました。

このシーンを観ていると、アリスとジューンも単なる仕事上の知人ではなく、ジョージも含めて3人で友人関係にあったのではないかと想像させられます。
ジューンと、彼女の夫と、ジョージと、アリス。この4人が恐らく大学時代の友人だったのではないでしょうか。
少なくとも、ジョージはジューンの結婚と別れから知っていて、ずっと彼女を愛し続けていたのだと私は思います。女性としても、友人としても。だからこそ、このシーンで壇上のルディが彼女について話す間、斜め後ろから優しく推移を見つめているのだと思うし、そんなジョージが映り込んでいるのが嬉しいです。

そしてルディの方は、ジューンを取り戻すことで「ヴァレンチノ」である自分を受け入れられたのですね。
ジューンこそが「ルドルフ・ヴァレンチノ」という虚像を作り上げた張本人なのですが、それは青年ルディを愛するからこその二次創作なものだったのだよな、と想います。
二次創作と言うのは、オリジナルが好きだからこその妄想炸裂ですから。

あ、後ろにある食事は普通に美味しそうでした!

【2幕9場 パーティー会場のロビー】
記者会見のため、ルディはジューンを先に帰す。「チャオ」と笑顔の一言を残して。

観劇時は、大体次のシーンになってから泣かされていたのですが、DVDでは「チャオ」の瞬間に涙が込み上げてしまいました。
ルディの満面の笑みと、ジューンの瞳から零れる幸せの涙。
この一瞬だけにしか存在しない、幻の時間。その儚さに泣かされました。

前回、何も考えず5場まで感想を上げました。すると、当然次回は6場から書くことになりますよね。
……真っ青になりました!
という事で、いきなりクライマックスです。

【2幕6場 クラブ21】
酒場でジョージを待っていたルディは、デ・ソウルと鉢合わせ、暴行を受ける。

初日に、客席でどう反応すべきかとても困ったシーンです(笑)。
まず茫然とし、次にどういう表情で観るべきか悩んで周囲を伺ったら皆さん平然としていたので、私が過剰に反応しているんだと反省しました。が、後日ファンブログ等を拝見したら、概ね「×××シーン」と言われていたので、普通の感性だったと安心しました。
「Yaw」みたいな耽美シーンは平気なのですが、こういうシーンは……動揺します。
粗筋は、言い繕っても仕方ないので簡素にしました。

さて、肝心のDVD感想。
デソウルの手下2人は、目つきの鋭さがヤクザ者の雰囲気で嵌まっています。特に、鳳樹いちが内ポケットの銃に手をかけたまま、美月悠に顎で指図するのが好きです。しかもその後、ポケットの奥に銃を収め直してから手を離しているのですね。非常に細かいことですが、存在しない小道具をきちんと扱っているのが素敵です。
ところで、前夜のクラブ21ではシカゴトリビューンの記事を取り上げて、ルディを「ポマードテカテカ」と揶揄していました。が、改めて観るとデソウルの髪のテカり具合の方が凄いですよね!

ルディがゲストルームに連れ込まれてからの音楽が好きです。
ここもタンゴ・バンド「アストロリコ」の演奏によるものなのでしょうか? 研ぎ澄まされた空気を内包していると感じました。

ダンスシーンのカメラアングルは、基本的に広範囲を収めていて大満足です。
それにしても、超ハイレグの娘役より、男役がスーツで踊る姿の方にエロスを感じるのが宝塚の面白いところだなぁと思います。

【2幕7場 ダウンタウンの街頭】
ゴミ溜めの中で目覚めたルディは、再び自由の女神に誓う。ここから人生をやり直すことを。

4場の感想で感じた通り、絶望しないルディは、この局面でもまだ希望を抱いて自ら立ち上がることができるのだな、と改めて感じ入ります。

余談ですが、私は東京公演初日に、このシーンについて大阪公演から演出が変わって歌が増えたのだと思い込みました。「アランチャ」と「ボンジョルノ」のリプライズははっきり覚えていたのに対し、間に入るメロディラインは聞き覚えがなかったためです。が、大坂公演を収録したDVDでも歌っているので、私の記憶の問題だと判明しました……(苦笑)。

東京公演までに書き終わると言う希望的観測が、少し現実になりました。

【2幕3場C クラブ21】
もぐり酒場で再会するルディとジョージ。ルディは過去の裏切りを謝罪し、もう一度3人で映画を作りたいと言う。その時、酒場のショーでルディを中傷する新聞記事が紹介され、ルディは激しいショックを受ける。

クラブの歌手が百千糸であることに、DVDで初めて気付きました。「誰がために鐘は鳴る」での軽やかな歌手の印象が鮮やかだった分、こんなムーディな雰囲気も出せるとは意外で、驚きました。
ルディは映画作りの夢を語りますが、公演が進んでいくごとに、彼が映画監督に転身して成功するとはとても思えなくて、どんどん空虚な希望だけが広がっているように感じたのが面白かったです。
大空祐飛という役者自身は、コツコツと積み上げていくクレバーな印象で、実際に演出的なセンスがあると言う話も聞きます。故に役者本人とダブらせると、映画監督になると言う夢に現実味があったのですが……。公演が進んでルディという役が深まるほどに、彼には他の道を歩む術がなくなっていったのかもしれません。

【2幕4場 記者会見場】
本心を曝け出しても記者からは取り合われず、ファンからは映画の登場人物であることを求められる。本名のロドルフォを愛してくれる者はいない──

天羽珠紀が「ヴァレンチノ」でなにを演じていたか思い出そうとすると、私の場合、1幕の占師メロソープではなく、この記者会見場の名もなき記者がまず脳裏に蘇ります。
たった一言の台詞なのに伝わってくる、独特の厭らしさ。取材対象をどう思っているかよく分かるし、彼が書くだろう記事の内容まで想像させます。
続くヘレン・ローズも、こちらは悪意なくルディを傷付け、一層の孤独感を与えてきます。
虚構の「ルドルフ・ヴァレンチノ」としてしか存在を許されない事実を畳み掛ける脚本に、震撼します。
それでも──ルディは絶望していないのですよね。

余談ですが。
ルディとジョージが同じような衣装を着て並ぶと、ジョージの身長の高さと、ルディの頭の小ささに改めて吃驚します。後者は髪型も影響しているかな。

【2幕5場 S&G出版社受付】
ジューンを探し出したジョージは、ルディが会いたがっていることを伝え、新作「シークの息子」の試写会に招待する。

フランソワーズ・スコット(ジューン)を訪ねるジョージですが、受付嬢の応対には疑問が残ります。作者の個人情報を探る相手には、もっと慎重に対処すべきですし、そもそもいつ出社するかなどの情報を漏らしてはいけないと思うのですよ。それとも、個人情報保護法などがなかった時代は、こんなものだったのかしら。
相手を思い遣りながらも本音で話せているジューンとジョージは、男と女であっても本当に良い友人同士だったのだと想います。
ところで、何度も見返している内に突然気付きましたが、ここでジョージに電話番号を教えたことが、10場の展開に繋がるのですね。実に無駄のない脚本です。