「ヴァレンチノ」DVD感想の最終回です。
リミットにしていた宙組東京公演までは約1ヶ月。そろそろ生舞台が観たい症候群が出て来ました。

【2幕10場 ジューンの幻想】
帰宅したジューンは、ラジオでルディが緊急入院したことを知る。病院へ行こうと立ち上がったところに一本の電話が鳴り響き、知らせを受けたジューンは声もなく立ち尽くす。

電話の音を聞いて立ち止まるジューンは、まるで人形のようにギクシャクとした動きで、まるで「その電話を取ってはいけない」と知っているように思います。いや、作家である彼女なら、このタイミングで掛かってくる自分宛の電話に悪い予感を刺激されても奇怪しくはないですよね。
茫然とタイプライターの前に座り指を動かそうとした彼女は、けれど結局言葉を紡ぐことができなかった。この時、ルディの死によって脚本家ジューンの心も死んだのかも知れません。

8場でルディが告白した通り、彼は「現実の恋人としては失格」でしたね。だって、生きて結ばれることができなかったのだから。
幻のルディたちと共に去っていくジューンが、涙に濡れた顔だけれど微かに微笑んでいたことが救いです。

【2幕11場 再生〜ジューンのバンガロー】
ルディの葬儀から1年後、ジューンも急死。ジョージは遺品のタイプライターで2人の回想録を書くことにする。
幻想の中、オレンジの枝を手折った移民の青年が、飛び出してきた女性にオレンジを手渡す──

家具に白い布が掛けられたバンガローをゆっくりと見渡すジョージの背から、懐かしむような、慈しむような想いが滲み出ています。
きっと友人として招かれたこともあるだろう見知った家が、こんな風に閑散としてしまったことで、改めて喪失感を感じているのでしょう。

ルディとジューンの幸せな出逢いを、私は幻想だと解釈しました。プログラムの言葉から考えるに、演出家も「天国の光景」と思って創作したようです。一緒に観劇した友人は、ジョージの回想録で描かれる2人の出逢いだと思ったそうです。
どう解釈するにせよ、最後に笑顔で終わって幸せです。

【アンコール】
此処からフィナーレに突入。なお、実際の舞台では、ここでかなり長い暗転があったのですが、DVDでは短縮されています。直ぐ幕が開き直すのは嬉しいけれど、もう少し余韻があっても良いと思うのは贅沢でしょうか。
「アストロリコ」演奏の痺れるタンゴに乗って、まずは悠未ひろをセンターとした男役群舞。
前場に出ていた春風が、衣装をシャツ含む上から下まで着替えた上で口紅をショー仕様の色に塗り直している早業に驚きます。
東京公演では男役群舞の星吹彩翔が良いポジションにいて目に留まったのですが、DVDを観てあれは天羽珠紀の代役だったのだと気付きました! 天羽も好きですが、芝居と歌の人と言う印象が強いので、星吹の入ったバージョンも観られて良かったです。
途中から娘役の群舞に代わり、ここでセンターを務めるのは七海ひろき。上半身は文句なしに美しいのですが、さすがに男役がロングドレスで踊るのは難そうですね。同時に、この激しい振りを美しい裾捌きで対処する娘役たちは、さすがに「娘役」だと感心しました。
主演コンビが登場後、4組のデュエットダンスになるメンバー構成にさり気なく寿つかさが入っているのが嬉しいです。
また、ラストのポージングで、蒼羽りくが抱きかかえた娘役に非常に優しい顔で笑いかけている姿が映り込んでいて、思わずトキメキました。

最後に挨拶まで含まれて、DVD本編は終了。
収録日は、東京公演中止発表があった3月17日だったのですね。 東京公演が実現して、本当に良かったと改めてあの日の感動を思い出しました。

さて、ショー「Apasionado!!II」には、奇しくもヴァレンチノをモチーフにしたシーン「熱視線」があります。来年2月の再演での「熱視線」は、この公演を経てどんな風に変わるのか、そんなところも楽しみです。

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