- 分類読書感想
荻原規子著「西の善き魔女」中公文庫版全8巻
【あらすじ】
隠遁する天文学者を父として辺境で育った少女フィリエルは、初めて出向いた伯爵家の舞踏会で、自分の母がグラール女王家から出奔した第二王女だったことを知る。その日から平凡な日々は消え去り、フィルエルと幼馴染みのルーンは、女王家の継承権争いと世界の秘密に巻き込まれていく――
最初は正統派西洋ファンタジーと思いきや、SFだった作品。もっと突き詰めて言えば、純和製の少しレトロな「少女漫画」だと思いました。
3巻までは、次々に舞台が移り変わって視野が広がり、読者とフィリエルの意識が、片田舎のセラフィールドから世界へ向かって一緒に開いていく感じが右肩上がりに面白かったです。4巻はその余勢で楽しめたのですが、5巻以降から少し盛り下がってしまったかな。
最終的に、問題がフィリエルとルーンの恋物語に集約されているのです。そのため、一番気になる今後のグラールや世界に関する顛末は尻切れとんぼ。読者の想像にお任せされていて、ガッカリしてしまったのですね。中盤までが非常に面白かった分、裏切られた感を持ってしまいました。
女王候補の3人の少女が、それぞれ魅力的です。
同世代の頃に読んでいたらもう少し違う印象だったかもしれませんが、フィリエルも、アデイルも、レアンドラも、みんな美点もあれば欠点もあって、可愛いお嬢さんたちでした。
私はユーシスが好きなので、7巻以降に出番がなかったのは残念でした。
荻原作品は「勾玉三部作」しか読んでいなかったので、本作の意外と軽いノリには驚きました。児童文学だと信じていたため、同性愛ネタもあるのには仰け反りましたが……。
ところで、本作は少々構成が変ではないでしょうか。
中公文庫版8巻は、元々外伝3巻という扱いなのですが、これこそ本筋の最終話に当たる内容なので、本編扱いで良いと思います。逆に、外伝2巻が中公文庫版5巻に組み込まれているのですが、6巻を読んだ時に、時系列が重複する5巻があるせいで、対帝国戦の緊張感が薄れる気がしました。でも、これがないと6巻のアデイル登場が唐突すぎて悩ましいところ。
正しく外伝といえるのは、中公文庫版7巻(外伝1巻)だけですね。ほのぼのした幼年期の話かと思いきや、8歳のフィルエルがルーンを殺そうとする下りが衝撃的でした。2人の関係性が、この話を経ることでよく理解できました。