三浦しをん著「風が強く吹いている」
【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
高校陸上界のエースだったが暴力事件で退部した過去を持つ寛政大学1年生のカケルは、万引きをしたところを4年生のハイジに捕まり、なりゆきでハイジが住むボロアパート竹青荘の10人目の住人となる。実は大学の陸上部錬成所だった竹青荘の10人は、運動音痴やヘビースモーカーも含めて箱根駅伝を目指すことになる。練習、合宿、予選会、そして箱根駅伝を通じて、10人はそれぞれの「走る意味」を問うていく。
素人同然の大学生が箱根を走るという設定の時点で、荒唐無稽だと思うけれど、これは現代日本である種の「ファンタジー」を描く三浦しをんの作風ですね。そして、個人的に努力が報われる話は好きなのでした。
なにより、読み進めるほどに、一癖あるけれど魅力的な竹青荘(アオタケ)の10人を応援したくなります。
個人的には、浪人・留年で25歳のニコチャン先輩と、留学生のムサが好きですね。
キャラクターの発言がいちいち御尤もで、他メンバーのタイムに文句をつけたカケルにハイジが激昂して言う「きみの価値基準はスピードだけなのか。だったら走る意味はない。新幹線に乗れ! 飛行機に乗れ! そのほうが速いぞ!」には思わず笑いました。
本編659ページという文庫にしては分厚い本。読んでいった際、半分に差し掛かったところで、全体の構成がわかり驚きました。
本文中、約2/5で箱根当日を描いています。つまり、練習したり予選会に出たりするのは3/5で消化するのです。
努力する姿を賛美する青春小説という側面は確かにあるけれど、それ以上に、箱根駅伝というもの自体が題材なんですね。いままでテレビ画面を通してしか知らなかった大会が、ぐっと身近に迫りました。
最後に、余談ですが「大掛かりな装置が必要ないので割とうまく舞台化できそうな話だな」と思ったら、とっくに映画化・舞台化されていました。キャストが結構面白い配役だったので、当時知っていたら観に行っていたなぁ。もっと早く読むべきでした。