恩田陸著「上と外」

【あらすじ(上巻ラストまでのネタバレ有り)】
離婚した家族が集まる恒例の夏旅行で中米を訪れた中学生の練は、軍事クーデターに巻き込まれ、妹の千華子と共に移動中のヘリから密林の中へ落ちた。道具と知恵を駆使して救出を待つ2人だったが、遂に千華子が脱水症状を起こし倒れたところを謎の少年ニコに助けられる。しかしニコは千華子の安全と引き換えに、「マヤの成人式」に参加するよう練に要求する。その成人式とは、王=ジャガーと3日間対峙し生き延びるという内容だった——

前半は説明が多くて歩みが遅い上、この先どう展開して盛り上げるのか想像も付かず、正直退屈だったのですが、兄妹がジャングルの中を動き始めてからは一気読みでした。

この作品は、読み進めるごとに印象が変わりました。
まず最初は、1つの家族というコミュニティが崩壊する、人の心の抉るような社会小説という印象。時系列が時々引っ繰り返る不思議な書き方で、スタンリー・キューブリック監督の映画が小説として生まれ変わったような感じです。
でも最後は、千鶴子と千華子がちゃんと抱き合えてホッとしました。
それだけに、練と家族の再会が描かれなかったのは残念ですね。そこまで描かれていれば、4人は再び「家族」になれたと実感できただろうし、賢と練がお互いの存在をどう受け止めたのか気になりました。

上巻の後半になると、密林の中でなんとか生き抜いていく兄妹に、マヤの遺跡や闇から覗く謎の人影の存在がのしかかる、どこか不気味なミステリーに変貌。ここには、「ガダラの豚」2巻のアフリカ取材のオドロオドロシさに匹敵する、忍び寄る怖さがありました。

下巻は、成人式を乗り越えるために知恵と体力を使う練、地下水路から抜け出そうとする千華子という、少年少女が困難を乗り越える冒険ものとして分かりやすく楽しめました。
面白いことに、ジャガーは確かに目に見える怖さがあるけれど、上巻での闇の中になにがいるのか分からない恐怖に比べると安心して読めました。読者である私にとっては、というだけで、練は生きた心地がしなかったでしょうけれど。

十代前半で、こんな知識量と解決能力がある子供がいるか!とか、ややご都合な部分はありましたけれど、面白い読書体験でした。

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