山本幸久著「男は敵、女はもっと敵」

【あらすじ】
才色兼備の映画宣伝マンだがバツイチの36才・藍子と、彼女を巡る人々の連作短編集。

挑発的なタイトルですが、実際は女同士の戦いを描くものではありません。私の印象としては「人は関わり合った人に対して、性別であれこれと理由をつけるけれど、実際はそう画一的なものでない」と語っている作品。
ということで、ドロドロした話かと思いきや、意外と爽やかな話で楽しく読めました。
作者は、男性。タイトルが女性視点ですし、文体も柔らかいのですが、登場する女性たちがサバサバして格好良く、逆に、男性のことを意外と遠慮なく扱き下ろす辺りは、やはり男性視点かな、と思いました。

短編構成で、語り手はどんどん変わるけれど、それぞれ少し関わりがあり、読み進めるうちに一つの社会が見えました。
登場人物が女も男もリアルで、多様な面を持っています。そのため、ある人物の語りで登場したときは嫌な奴だと思った相手が、主役になると急に共感したり笑えたりして、結局世の中にはそうそう善い人も悪い人もいなくて、普通の人がそれなりに生きているんですね。
文庫版書き下ろしで描かれた3年後の藍子に子供がいることに驚いたり、少し納得したりするのも、そういうリアルさだと思います。実は、誰の子なのか確信が持てなかったのですが、作中に登場した人物ではないかもしれない、と考えたら腑に落ちました。そういう、読者に見えない部分があっても許される作品ですね。

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