乃南アサ著「しゃぼん玉」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
強盗と逃亡を繰り返す根無し草生活をしていた伊豆見翔人は、偶然辿り着いた宮崎県の山奥で怪我を負った老婆スマを助ける。村人たちから孫と勘違いされ老婆と同居を始めた翔人は、平家祭りの準備に駆り出され人々と繋がる内に、自堕落な性根を改め生き直すことを決める。

現代のキレる若者が、田舎で祖父祖母世代と触れ合って更生するというストーリーラインだけ抜き取ると、非常に王道ですが、心理描写が巧みで、全く理解も共感もでいないけれど、実際にこういう人間が実在して、それゆえ突発的な犯罪が発生するのだなと思わされました。
主人公の愚かさには終始イライラさせられ続けましたが、荒んだ心が次第に更生していく過程がちゃんと見えましたし、きちんと自首して罪を償った後のハッピーエンドなので、後味はそれなりに良いです。
主人公以外では、スマ婆、シゲ爺といった翔人と関わる人々が、昔ながらのお婆ちゃん、お爺ちゃんという感じで、愛せるキャラクターでした。

タイトルの「しゃぼん玉」もきちんと物語の中に組み込まれていて納得できるし、全体的に無駄なく構成されたお話でした。
強いて残念な点を探すとしたら、なぜスマは朝早くカブで出掛けようとしていたのか、という疑問の回答が得られなかったことでしょうか。

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