谷川直子著「おしかくさま」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
夫の浮気を機に信じるものを失い、鬱患者として十年以上過ごした金欠バツイチのミナミは、ある日「おかくしさま」なる“お金の神様”を知る。インターネット上で信者を集め、ATMをお社と呼ぶインチキ宗教から、ミナミはお金という紙切れを拠り所とする心理は、最終的には人を信じることに行き着くと思い当たり、真面目に仕事をして生きることを始める。

今作については、あらすじを書くのが難しかったです。結局、陳腐なまとめになってしまいました。

お金で買えないものは本当にあるのか。それは何なのか。
という問いに対して、主人公は「過去(過ぎ去った時間)はお金で買えない」という結論を得て、地道な暮らしという「正道」に戻るわけですが、だからといって精一杯今を生きなければいけない、というほど心を入れ替えたわけでなく、一攫千金も諦めていなそうな緩さがリアルだと思いました。

拝金は悪なのかという興味深いテーマと、「おしかくさま」の今風な宗教具合は面白かったです。
また、おしかくさまを信じている高齢女性4人はユーモラスで、印象に残りました。
小説としては、視点が終始フラフラするので慣れるまで誰が語っているのか把握するのが大変だったのと、会話だけの羅列があると思えば、上から下までギッシリ詰まったページもあるなど、少し読み難い体裁でした。

なお、作中で「インチキ宗教とインチキでない宗教の違いはなにか」という下りがありますが、私は「現世利益を保証するかしないか」だと考えています。
宗教が与える物は魂の平安であって、お金が手に入るだとか病気が治るだとかいうことではないと思うのでした。

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