- 分類読書感想
三島有紀子著「しあわせのパン」
【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
北海道の月浦で夫婦が営むオーベルジュ「カフェ・マーニ」。様々な問題を抱えた客が、あたたかなパンと手料理、珈琲の力で、前向きに生きる力を取り戻していく。そして夫婦も、客に力を与えることで、自分を肯定できるようになっていく。
表紙を開けて、1枚目のタイトルページをめくると、まず奥付から始まることに驚きました。一瞬、間違ったかと思ったけれど、後ろから開くと、作中のキーアイテムとして登場する絵本「月とマーニ」が収録されているという仕掛けでした。「月とマーニ」の内容はプロローグで詳細に説明されているけれど、実物を見られるというところに楽しさがあります。
りえさんが一体なににそこまで疲れていたのかという物語の根本的なところは描かれていないし、都会で暮らすことは大変で、田舎は休まるというような紋切り型の考え方もどうかと思ったのだけれど、恐らくそういう細かいことを突っ込むよりは、大自然や美味しそうなパンや人の優しさに漂うべき作品なんでしょうね。
実際、1つのパンを分け合う仲間=家族という定義は、素敵だと思いました。
ただ、エピローグの「手紙」には、モヤモヤとしてしまいました。
宛先が、作中に出て来ない人物名なのです。
ネットで調べてみたところ、「りえさんの母親」という説が多く、なるほどと思ったけど、作中に「岸田」という姓が一度も出て来ないのだから、推測できません。
死別または生別した母親への手紙だというなら、それと分かるよう、りえさんの旧姓をどこかに入れておいて欲しかったです。旧姓が出て来ても奇怪しくない箇所で、あえて名前で呼ばせているからには、わざと伏せたのでしょうが……。