多和田葉子著「雪の練習生」

祖母から孫まで三代の主人公が語る「祖母の退化論」「死の接吻」「北極を想う日」の連作。
……その主人公はホッキョクグマ。
不思議な作品でした。

まず出だしから、主人公であるクマが会議(議題は「我が国における自転車の経済的意味」)に参加していたり、自伝を書いたり、オットセイが編集長だったりするので、これは動物が人間的社会を形成しているというファンタジーなのか、或いは寓話なのか、と考えさせられました。
2人目のトスカはサーカスで、3人目のクヌートは動物園で暮らしているので、彼らがクマであることは間違いないのですが、最初の主人公「わたし」だけは、人間と一緒に暮らしたり話したりしていて、実に不思議な存在でした。

解説で指摘されている通り、だまし絵のような構造になっているお話で、一読しただけでは難しいです。
「祖母の退化論」は、前述の通りファンタジックな設定と、物を書くという行為に対する考察と、共産圏での暮らしといったリアルな要素とが混ざって、非常に面白かったです。
「死の接吻」は、語り手が入れ替わるオチと、ウルズラとトスカの芸の表現が素晴らしくて引き込まれました。動画で実際の芸を確認できますが、実物よりも断然小説で描かれた芸の方が、美しさと迫力があると思いました。
「北極を想う日」はオチのどんでん返しがなく、どう解釈して良いのか分からなかったので首を捻りました。

作品の文章も、この不思議な作品の空気感に似合いの独特のリズム感と透明感がありました。非常に不可思議な作品なのに、楽しく先を読み進められたのは、この詞に魅了されたためかなと思います。

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