川端裕人著「リスクテイカー」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
1996年、ケンジは級友等と共に、最先端の経済物理学を駆使した「外国為替取引の価格予測システム」を作り、ビジネススクール卒業と同時にヘッジファンドを旗揚げた。やがてシステムを成熟させた彼らは、出資者である大物ファンドマネジャーの意向を受けて、市場の行き過ぎを防ぐための為替介入を科学的に行えることを立証する。

感想もあらすじも、まとめるのが難しい小説でした。
金融市場でのバーチャルな「マネー」と、私達が実際に日々使う「お金」との乖離を考えさせられる一冊。
作品の中で語られる「マネー」の結論は、読者個々が考える物であって、ここで定義付けられるものでない、と思ったので今回はあくまで物語の中での動きだけをまとめました。

日本人の作品ですが、最初のうちは、翻訳物を読んでいるような違和感がありました。
経済用語が多数登場するのは、作品の性質上当然ですし、ある程度説明もされています。また、システム部分の解説に使われる統計物理だとかの話は、斜め読みでもなんとかなりました。読了した今でも、カオスだ複雑系だという単語の意味はまったく分かっていません。
気になったのは、それ以外の部分です。例えば18ページのこの文章。

隣には、小太りで分厚い唇の見慣れないラティーノが立っている。

「ラティーノ」という語を、最初は名前かと思い、しかし「見慣れない」と付いているので違うなと判断して、結局調べてしまいました。
彼がラティーノであることは、本人の思考に大きな影響を及ぼしているので、読み終わってみると「ラティーノ」としか表現できないのは分かりますが、ラテン系アメリカ人だとか、移民の子という感じで書いてあれば、教養がなくても分かるので助かります。
109ページで登場する「チャイニーズ・キャラクター」という言葉も、直後のやり取りから「漢字」だと推測できたけれど、一瞬戸惑いました。
アメリカが舞台で、ほとんどの会話が英語で行われている想定とはいえ、読者が日本人なのですから、もう少し日本人に分かりやすく書いて欲しいです。

しかし、読み難いと思わせつつも、最後まで読み切らせる力はありました。
世の批評を見ると、経済小説としては少々誤りなどもあるようですが、金融市場を相手に戦う青年たち(と中年と老人)の青春物語として面白かったです。

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