桂望実著「頼むから、ほっといてくれ」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
トランポリンでオリンピック出場を目指して合宿に集まった5人の青年たち。練習と試合を重ねながら、嫉妬や挫折と戦いながら、オリンピック出場を果たす者、メダルを獲得する者も現れるが、やがて彼らは皆競技を引退し、第二の人生を歩み始める。

タイトルのせいで、周囲のプレッシャーに圧し潰されながら、5人が出場権を賭けて戦うようなお話かと想像していたのですが、長い人生と短い競技人生の折り合いをどう付けるか、なにを目標に競技をするのかといった事を問うてくるお話でした。
真っ直ぐオリンピックまで突き進む競技者もいれば、一度辞めてから復帰するというドラマがあったり、早々と競技人生を下りてしまう者もいたりして、予想外の展開に驚かされました。個人的には、何事も適度にスマートにこなせて、一生懸命になることがなかった野田遼が、年を取ってからトランポリンに回帰するエピソードが最後にあるのが巧いなと思いました。

初読では、目を惹くタイトルと中身が合っていない気がしたけれど、すべての道は自分自身で決めないと意味がない(だからあれこれ指図しないで欲しい)という意味なのでしょうか。

文章的にも、非常にスムーズ。
エピソードは視点を変えながらどんどん進んで行きますが、時系列が戻ることはないので、読みやすかったです。コーチや広報担当視点も含まれているので、多角的に楽しめます。特に「娘の為に競技を辞めた」という父親の決断を自分の重荷に感じる娘という下り等は、親の観点から考えてしまいがちだけれど、娘の側はそう受け取ることもあるのかと考えさせられました。
反面、全体がさらりとしているので、もう少し競技者として悩みや他者との関係があっても良いのではないかと思いました。

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