宝塚雪組「るろうに剣心」15:30回(ローソンチケット貸切)
宝塚史上初だと思われる、少年漫画原作のミュージカル。
ちなみに、東京宝塚劇場公演の千秋楽(5月8日)は、全国でライブ中継されることが決定しています。退団公演やイベント公演でない、ただの通常公演が中継されるのは、これまた宝塚史上初のこと。チケットが取れない人気公演はこれまでも多数ありましたが、中継まで実現してしまうところに、原作の人気と本作への期待を感じました。
私は、原作漫画の直撃世代ですが、ファンではありません。連載当時に京都編序盤(操が登場した辺り)まで既読。アニメは数話観ていますが、その他の媒体は未見。
そんな微妙なスタンスのオタクである麻生個人の評価を率直に書くと、「宝塚ファンと原作ファンの両方に良い顔をしようとして、中途半端」だと思いました。
語弊のないように断っておくと、舞台自体は楽しかったです。
殺陣に迫力があったし、大人数を生かした見せ場があったり、なによりどの生徒も大健闘でした。笑うところが多かったのは意外な気がしましたが、そういえば原作も序盤は割とコメディ色が強かったですよね。
一幕は駆け足ながらそれなりに原作の台詞を盛り込んで、雰囲気もうまく作ってると思いました。
その調子で最後まで進めば良かったのですが、残念ながら二幕は短い尺で話をまとめようとするあまり、全体的にバタバタした上、展開も無理矢理気味でした。
厳しいことを言えば、小池修一郎先生の弱点がモロに出た公演かもしれません。
まず、原作の読み込み不足もあると思いますが、最初から最後まで、感情の盛り上がりがないまま、淡々と出来事だけを消化した感じがしました。剣心はやはり根が少年漫画なので、もっと「燃え」を体現できる演出家向きだったように思います。
正直、剣心に分かり易い「格好良さ」を感じられませんでした。戦いの中に、人斬りの凄みがあって欲しかった。そして、それでも人を斬らないという姿を見せて欲しかったと思います。
逆に、薫の乙女心の発露などは、小池先生の得意分野ですし、演じる咲妃みゆの巧さもあって、非常に良く表現されていたと思います。ただ、薫との恋愛話は宝塚だから盛り込むのは当然としても、東京編の段階では、明確に「好き」と言わせない方が良かったのでないかなぁ。
前述の通り、キャストは全員良かったです。
剣心@早霧せいなは、前述の通り、明治以降は可愛い雰囲気が主でしたが、それは脚本の問題であって、神谷道場での活人剣という甘っちょろい理想への優しい眼差し等、魅力も十分ありました。
薫@咲妃みゆは、リアルだけど嫌みがなく可愛く、さすが天下無双のヒロイン役者。喉は不調そうでしたが、歌も台詞もしっかりこなしていました。
オリジナルキャラの加納惣三郎@望海風斗は、幕末の初登場シーンでは声が少し高く感じて驚いたのですが、時間経過を見せるためだったのですね。歌唱シーンが多く、劇場中に響き渡る歌声に酔いしれました。勘違いストーカー気質なところは笑ったけれど、最後の戦いにおける剣捌きに、凄まじい強さを感じました。最期まで格好良かったです。
斎藤一@彩風咲奈は、ニヒルな大人の男を予想以上に演じられていたと思います。
元々左利きではないため、基本的に右手で刀を持ち、牙突だけ左に持ち直して構えていたようですが、それは仕方ないですね。
武田観柳@彩凪翔は、かなり思い切った三枚目寄り演技でしたが、一皮剥けたという気がします。儲け役だったかも知れません。
左之助@鳳翔大は、アホさと愛嬌で乗り切っていたと思います。左之助だけ、演出が歌舞伎調にされていたのも面白かったです。
高荷恵@大湖せしるは、大人っぽさと蓮っ葉な感じがあるなかなかの美女でした。
蒼紫@月城かなとは、正にビジュアル賞。今回の舞台では、加納と観柳に挟まれてやや扱いが軽くなってしまっていますが、見た目の再現度はさすがでした。
また、お庭番衆も良いですよね。全員生き残りましたが、私は舞台版では死ぬ必要がないのだから、良い結末だったと思います。プログラムやパレードでの御頭+4人並びは、粋な計らいだと感動しました。
剣心の影@永久輝せあは、剣心本人で物足りない「格好良さ」を体現していました。
弥彦@彩みちるが、実に小生意気で可愛い少年っぷりで、とても良かったです。ファンになりそうです。原作での重要度は勿論、舞台上でも役が大きいのだから、どんなに下級生だとしても、スチールに乗せるべきだったと思います。
大劇場ではインフルエンザ騒動で代役に次ぐ代役と、大変だった本公演。
今日は咲妃みゆの声が全般的に枯れていたのと、夏美ようがフィナーレで大階段を降りず、脇から合流したので、足腰の調子でも悪いのでないか心配です。
フィナーレは1本物の定番構成。
群舞は、個性はありつつも揃っているところが宝塚の味だと思うので、今回のようなバラバラとした踊りは好みでありませんでした。
指揮者は塩田明弘先生でした。最近、宝塚歌劇での登板機会が増えた気がします。個人的には、塩田先生の指揮だと演奏の質が高いので嬉しいです。
オリジナル楽曲なのに、難しそうな歌が多かった印象です。
オウミ