- 分類読書感想
東芙美子著「梨園の娘」
【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
梨園の御曹司の元に男女の双子が生まれた。娘・葵は、父の才を受け継いでいるが、女であるため歌舞伎役者になれない。悔しさから女優を目指す葵を溺愛する父はオーディションへの圧力等で妨害を続ける。一方、双子の兄・桂は才能もなく、スキャンダルで報道陣に追われ、一門の発表会をスッポカしてしまう。葵は兄の名で連獅子を舞い、父娘は共に歌舞伎役者として舞台に立つ喜びを共有する。
面白かった!
もともと私は演劇小説が好きなので、余計に楽しめたと思います。でも本作のメインは、梨園という独自世界の描写と、娘と父親たちの攻防ですね。
梨園については、一般人にとっての異界という意味で「ファンタジー」なので、非常に興味深く読めました。
また、ありとあらゆる手段で葵の夢を潰そうとする父・京二郎やその兄貴分・凱史の行動が凄まじく、名優故の迫力もあり、その上で、叩きのめされても屈さない葵の頑張りが凄まじかったです。
強いて言えば、葵が自力で反抗するのではなく、清香という協力者が敷いたレールに載せられているような面があって、そこは少し残念でした。もちろん、葵は子供なので、清香が付いていないと、英国留学で演劇クラスに入ったり、英会話教室の素振りで英語演劇教室に通うとかは不可能だったと思いますが。
登場人物は結構多め。嫌な人はいませんし、人物の配置は良いと思ったけれど、なぜその人がそういう行動を取るのか、曖昧模糊とした部分はありました。
例えば、京二郎が娘を女優にしたくなかった心理は森監督との会話で推測できるけれど、そもそも、最初から娘を欲しがっていた理由はわからず仕舞いでした。
そんな中でも好きだったのは、マネージメントの神崎氏。元広告屋という設定を裏切らない発想力が良かったです。