吉田篤弘著「それからはスープのことばかり考えて暮らした」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
引っ越し先の町で、驚くほど美味いサンドイッチ店に出逢い、その店で働くことになった大里は、新作メニューのスープ作りを任される。一方、古い映画に出演する端役女優を追って映画館を巡る内に、映画館で頻繁に出逢う老女から「名なしのスープ」の作りかたを教えられる。やがて、周囲の人々との関係を折り込みながら完成した自分のスープが仕上がった。

美味しいサンドイッチとスープが食べたくなる物語。
そのため、巻末に「名なしのスープのつくり方」という扉があって惹き付けられましたが、ページをめくって拍子抜けしました。ちゃんとしたレシピを載せて欲しかったです。
主人公がオーリィ君と呼ばれているせいか、舞台は日本なのに、どことなくファンタジックな展開が受け入れやすかったように思います。

最後、突然終わってしまったように感じて、ここまで歩んできた世界が断ち切られた気がしました。もう一度読み直したら、唐突感は減ったけれど、「スープを飲みたい」という台詞をどう受け取ったら良いのかわかりません。あおいさんがオーリィ君の恋心を知ったことで、新しい関係が始まるということを示唆しているのでしょうか。

オーリィ君は茫洋とした男なので、私と気が合わなかったけれど、大家のマダムやリツ少年はなかなか面白いキャラクターでした。また、オーリィ君が自分であおいさんの正体に気付いた点も、少し見直しました。といっても、あおいさんは最初から最後まで自分のことは語らないので、ほんとうにあおいさんなのか不明ですよね。そこが味わいで、作中に作られるスープのようにほんわかした作品だなと思います。
私好みのテンポではなかったけれど、のんびりとできる本でした。

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