乾石智子著「夜の写本師」

【あらすじ】
3つの宝石を持って生まれた少年カリュドウは、育ての親を国の最高権力者である魔道士アンジストに殺害され、復讐を誓う。魔法を学び始めたカリュドウは、やがて魔道士の手に寄らず魔法の効果を得る本を作る「写本」の技術を知り、修行の末に写本師となる。一方、アンジストの弱点を探る中で、カリュドウは己が3つの力、月と闇と海の力を持ちながら、そのすべてを愛するアンジストに奪われた乙女シルヴァインの生まれ変わりであることを知る——

ハイ・ファンタジーの新たな名著!
子供時代に、当時は三部作だった「ゲド戦記」を初めて読んだときのような、異世界そのものを目の当たりにしている感覚を受けました。
国ごとに景観や人々の性質が異なり、カリュドウの4つの生と一緒に、それぞれを見て回れるのでワクワクします。
また、多彩な魔法も魅力的です。人形を使った魔法、書物を使って発動する魔法、生け贄を使う呪法など、様々な魔法が描かれますが、それぞれが緻密に構築されていて嵌ります。

作中ではなんと1000年に渡る時間が描かれていて、物語自体に厚みがありますし、描写も緻密です。
そして、なんと言ってもテーマが復讐ということで、全編に凄みがあります。読んでいる最中、どこか乾燥した空気を感じるのは、あらゆるものを奪われて乾いたカリュドウの心の現れでしょう。
ただ、あまりに硬派過ぎて肌に合わない人もいそうです。遊びがないので、息詰まる面もあります。精神的に追い詰められているときは読み難いだろうと感じました。でも実は、最終的に「悪い者」はおらず、復讐を遂げた後に救済が待っているので、気持ち良く読み終えることができました。

難を言えば、夜の写本師となってエズキウムに帰って来てからのカリュドウには共感し難い面があったり、巧く回りすぎると感じたところもあったりはします。
また、本好きにとっては、魔法の本と写本師という設定で印象が底上げされているかも知れません。でもそれも設定の巧さだと思いました。

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