連続して、人格破綻者が登場する下記2作品を読んだのですが、感想は真逆になりました。

西村賢太著「小銭をかぞえる」

「焼却炉行き赤ん坊」「小銭をかぞえる」の中編私小説2作。
主人公の性格の悪さにイライラするのに、先へ先へと読みたくなる作品でした。男も女も碌な人間でないけれど、確かに存在するリアルさを感じるのは、自己愛で言い訳することなく、真っ正面からクズっぷりを曝け出しているせいでしょう。
文章力が高い上、非常に熱量があるので、まったく理解できない主人公ながら、嫌悪しつつもその感情に飲み込まれていくのです。
下衆を描いた私小説なのに、極めて面白いという、初めての感想を抱きました。

町田康氏の解説は、「自宅の本棚を書店の一角に再現する、という企画」に基づいて物を書くという行為と西村作品の分析という内容でしたが、企画自体に対する話の部分が面白くて、興味が湧きました。

ねじめ正一著「長嶋少年」

長嶋茂雄を崇拝する野球少年の物語。
主人公が短絡的なのは、子供だからという理由で納得できます。しかしその母親が、母子家庭なのに碌に働かず姉に寄生しつつ、育児放棄しているくせに、子供が怪我をすると相手を強請るという人間で、あまりに不愉快で、読んでいて何度か投げ出したくなりました。
少年の心の機微の描写は秀逸で、大きな事件はなくても毎日必死で冒険に満ちた日常には惹き込まれました。

解説は又吉直樹。素直で気持ちのいい、好感の持てる文章で、本作で抱いた嫌悪感が少し和らぎました。

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