ヒキタクニオ著「ベリィ・タルト」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
リンは、元ヤクザの芸能プロ社長・関永からスカウトされ、アイドルを目指す。しかし人気が上昇し始めた矢先、大手プロから強引な移籍話を持ち掛けられる。リンの大成の可能性に夢を抱く関永は移籍を断るが、リンの母親が大手プロに同意書を渡した上、リンの身柄も誘拐されてしまう。打つ手を失った関永だったが、部下・小松崎がリンの母親と無理心中したことで、離婚した父の同意書を持つ関永の元にリンは戻されるが、自分を巡って人が死ぬ様を見たリンはアイドルを辞める。

ふわふわとしたイメージのアイドルではなく、化粧、運動、食事制限など、ストイックに「人に見られる」職業を追求したアイドル小説です。そのため、主人公リンがアイドルとして磨かれ垢抜けていく成長過程は、ウンチクも含めて楽しく読めました。
また、リンを手掛ける2人がインテリヤクザだという点から、全体的に下品な匂いが付きまとう会話も刺激的でした。

それだけに、中盤から、大手プロとリンの取り合いにシフトすると、急速に陳腐に感じられたのが残念でした。銃だ日本刀だと、あまりに破天荒過ぎて現実味がありません。
終盤、どう決着を着けるのかと思ったら、私としては雑に感じる畳みかたで、非常にガッカリしました。
小松崎が死ぬのは構わないけれど、リンがアイドルとして大成しないまま終わってしまうのでは、報われません。悪役として使われているリンの母親の描写も鼻につきましたし、リンが専務の家に監禁されていながら処女を失わずに済む展開は、ご都合主義というより男性作者らしい処女信仰を感じて私は辟易しました。

しかし、リン、関永、小松崎、仁という、アイドルの原石と彼女の教育に関わる男たちという4人組の魅力は最後まで褪せませんでした。
登場時のリンは、蓮っ葉で馬鹿な女の子かと思わせておいて、本能が強く健気で潔い野生児という、独自の魅力があるアイドル像で、TVでどう映えるのか見てみたいキャラクターでした。

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