宮木あや子著「雨の塔」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
世間から隔絶された全寮制の女子大で、高校時代に同性と心中未遂を起こした矢咲、母親から捨てられた小津、権力者の妾腹の娘・三島と奴隷のように仕える都岡が出逢った。4人は惹かれ合って嫉妬し、やがて矢咲と小津は関係を結ぶが、外界での事変を受け矢咲が実家に戻ることにすると、小津は海に身を投げてしまう。矢咲は小津が死んだことを知らぬまま学校を去り、一方、都岡は三島の元に残ることにする。

前情報なしで読み始め、途中で「少女愛」の作品だとわかりました。
「お姉様」的な面はないので、「エス」とは少し違うような気もします。だいぶ幻想的ではありますが、セックス表現も含まれているので、苦手な方は要注意です。

独自の学園設定で、かなりファンタジーな雰囲気が漂っています。
食事シーンは何度もあるのに、まったく生活感がないのも特異。
外界から物理的に切り離されているとは言っても、電話はあるし、岬内にも学生やダウンタウンの店員、事務員等がいるのに、全体的に4人の内面と手の届く範囲しか描かれないため、ここには4人しか存在していないかのように感じる狭い世界でした。

そして物語を紡ぐ4人は、普通に付き合って悪印象を与える人ではないけれど、卑怯だったり、愚かだったり、歪な面があって、手放しの好感を抱くことが難しい人物でした。
もちろん、意図的な人物描写だと思います。

小津が死ぬことは、途中から示唆されていたものの、その時点では「なぜ死ぬ必要があるのか」と疑問に思っていました。しかし、最後まで読むことである程度腑に落ちました。
彼女の場合は、母親から捨てられた、不要な人間であるという喪失感があっから、矢咲から「小津が必要」「一緒にいる」という言葉を貰うことで、自分を肯定していたのですね。それゆえ、矢咲が大学を不要とした瞬間、自分も捨てられる前に逃げたのだと思います。
もう少し小津が自己肯定に足る期間を経ているか、矢咲が言わずに済ませた「外界でモンブランを食べよう」という約束をしていれば、小津は逃げなかったかもしれません。
この2点に関して、矢咲を責めて仕方ないことはわかります。でも、矢咲は自分が小津を追い詰めて殺したことには最後まで気付かないだろうと思わされる辺り、残酷な少女です。

そうして小津の死と寂しさ矢咲の残酷さを感じただけに、愚かだけれど善良ではある三島の元に都岡が己の意思で戻るラストには、少し救いを感じました。

コメント

  • コメントはまだありません。

コメント登録

  • コメントを入力してください。
登録フォーム
名前
メール
URL
コメント
閲覧制限
投稿キー
(スパム対策に 投稿キー を半角で入力してください)