- 分類読書感想
萩原浩著「押入れのちよ」
短編9作を収録。
そのお話も、作者の文章構成の巧みさが光っています。読み物としては非常に面白いです。
しかし、私は、心優しい幽霊と生者の間で起きる喜劇や悲哀を描く「ジェントル・ゴースト・ストーリー」短編集だと思って読み始めたので、「ホラー」が含まれていたことにショックを受けました。
表題作「押入れのちよ」「コール」「しんちゃんの自転車」の三作は、期待通りの善良な霊と人間の関わりを描いた作品。
特に「コール」は、読者の「思い込み」を上手く使った叙述ミステリーになっていて、途中で種明かしされた時点で思わず「えっ」と声が出ました。そして、暖かさと哀しさとが胸に残る、素晴らしい一編でした。
夫と妻がお互いの殺意を込めた夕食を囲む「殺意のレシピ」は、喜劇的で面白かったです。相手を殺すためそれぞれが知恵を絞り、肉を斬らせて骨を断つ覚悟で口をつける辺りは、なんだか笑えます。
「介護の鬼」も、喜劇チックな作りでしたが、本作で行われる行為は現実に有り得そうで、気分が悪くなりました。
そして、正真正銘のホラーである「老猫」は、生理的な恐怖を覚えさせられます。読み飛ばそうかと悩んだけれど、読み飛ばしたら気持ち悪さを拭えないと思って、我慢して読み切りました。が、ラストまで読んでも余計に怖いだけでした……。
苦手ジャンルが含まれていた為に、後味の良くない読書だったのが残念でした。
出版社には、怪奇小説だからといって、後味の良い作品と悪い作品をまとめないことを望みます。